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アサガオ系統について

現在、当研究室では1500系統以上のアサガオの突然変異系統を保存しており、系統数は、寄託や交配による新系統作出によって年々増加しており、他にもマルバアサガオ(I. purpurea)等、Ipomoea(サツマイモ)属の突然変異系統も収集している。これらの収集・保存・提供事業はナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の補助金によって運営されている。なお、NBRPは2002年から2014年までは文部科学省(MEXT)の管轄であったが、2015年から日本医療研究開発機構(AMED)の管轄に変更になった。
  当研究室で保存している系統のうち、約550系統は、国立遺伝学研究所(静岡県三島市)の竹中要が、1956年(昭和31年)年に日本で開かれた国際遺伝学会議においてアサガオを展示する目的で収集した系統に由来し、以降、竹中の没後も国立遺伝学研究所において保存されていたが、1993年の田村仁一の退官を期に系統更新が休止していた(最終的な更新は1990年)。それらの全ての系統は1997年に、国立遺伝学研究所から九州大学に移管され、移管に際し、遺伝研の系統番号をそのまま引き継いでいる。また、法政大学の笠原基知冶のマルバアサガオのコレクション約300系統は2013年に九州大学に移管され、現在調査が進められているが、これまで知られていなかった花色や形態変異を多く含んでいる。

NBRPプロジェクトは基本的には基礎科学の研究に資するための事業であるが、アサガオのリソースは教育や一般育種家にも提供を行っている。種子の提供については別項に示した。

NBRPプロジェクトのもと、九州大学で収集、保存、提供を行っているアサガオ類の系統は、研究用途では以下のように分類することができる。 観賞用途による分類は「園芸」の項目を参照してほしい。種子の提供に保有変異等によって分類された系統番号の意味は、系統番号のルールに示した。

アサガオ系統の分類

和名 学名 分類 説明・例
アサガオ Ipomoea nil 標準系統

ムラサキ(Violet; Q79):生理学研究等で最もよく用いられている標準系統。大量に使用するユーザーが多いため、当機関で増殖しており、他の系統とは異なり、粒数単位の料金体系になっており、廉価で利用できる。
東京古型標準型(TKS; Q1065):この系統は、分子生物学的研究における野生型系統として、また、ゲノムプロジェクトの解読サンプルとしても用いられている。内在のトランスポゾン(Tpn1ファミリー)が転移しておらずゲノムが安定しているという特性もある。

    実験用系統

・形態変異系統:変化朝顔とよばれる形態変異体のコレクションで、向背軸形成に関する変異も多く含まれる。
・花色変異系統:アサガオは他のモデル植物はもとより、園芸植物としても花色や模様変異が豊富で、花色の発現機構やRNA干渉などの機構を解析するために優れた系である。
・マッピング用系統:15群からなる染色体の代表的な表現型マーカーコレクションを含んでいる(整備中)。
・組換え近交系統(RILs; QR001-QR210):ゲノムプロジェクトにおいて、RAD-seqによるマーカー作製にも用いられた東京古型とアフリカ系統(Q63)のF2展開株の自殖をF8以上に進めた系統群。
・突然変異誘発系統:易変性系統(Q1072R)および東京古型にEMS処理を行ったM2種子を提供している。

    教育用系統

・メンデルの法則:種子を播いてすぐに子葉の形質で計数できる、単純に3:1に分離する系統から、3性(27:9:9:9:3:3:3:1)に分離する系統まである。
・組換え実験:子葉の段階で鑑別可能な連鎖した形質を持つ系統で、2遺伝子間の組換え率を計算することができる。
・いろいろな遺伝:補足遺伝、不完全優性等、いろいろな遺伝様式を確かめるためのコレクション。
・ABCモデル:花器官の形態形成モデルの説明に適した変異体のコレクション。
・生理学的実験:ムラサキ(Q79)は教育目的でも広く用いられており、他の系統と比べ廉価で提供している。

    エコタイプ

世界各地の自然集団由来系統:アサガオは世界中に分布しており、原産地の緯度に応じた花芽の分化に関する短日感受性を持っている。また、日本産のアサガオとは、花のしおれる時間帯、葉や花の形態、毛茸、さく果の形態、種子の離脱など様々な形質の分化が見られる。日本産のアサガオとの間の塩基多型も利用して、遺伝子のマッピングにも利用されている(特にアフリカ系統;Q63)。

マルバアサガオ Ipomoea purpurea  

欧米で園芸植物化されたアサガオの近縁種である。アサガオに次いで品種(変異)の種類が多く、特に法政大学の笠原基知冶が変異体のスクリーニングと保存を行ったため、日本の方が変異リソースは潤沢である。アサガオと比べると花や葉がやや小型で、種子も小型で、花も房咲きになり結実すると下に向く。また、花のしおれる時間は早い。和名のとおり、標準的な系統の葉は翼片のない心臓形をしている。 低温期でも生育を続けるため、日本では長野県や北海道でよく栽培されている。これは耐寒性が強いというよりも、アサガオと比べまだ温帯地域に適応していないためだと考えられ、晩咲きの品種もある。日本へは江戸初期に長崎に導入され、東浦塞牽牛花(かんぼちゃあさがお)、福岡では八つ房と呼ばれていたという。

アメリカアサガオ Ipomoea hederacea   日本へは戦後の救援物資とともに入ってきたと考えられており、帰化植物化している。花はアサガオより小型で、葉は5裂または3裂し深く切れ込んだヘデラセア葉をしている。学名もツタ(Hedera)の葉に似ていることに由来する。ただし、翼片の無い丸葉の変種もよく見られる。アサガオに最も近縁の種で、アサガオとも低い確率であるが交配可能で、遺伝子マッピングの目的でも用いられている。
ノアサガオ Ipomoea indica   アサガオに近縁の植物であるが、多年生(宿根性)であり、強い自家不和合性を示すため種子を付けることは稀である。日本では、南西諸島から、九州、四国、紀伊半島の太平洋岸に分布する。園芸的に利用されている大輪、濃色の系統は主に外国産のノアサガオで、先にヨーロッパでI. acuminata等 称して利用されていた。支柱によじ登る通常のシュートと、重力屈性を欠き、発根部がある匍匐シュートを生じ、後者によって生育域を拡大する。温暖な地方では駆除困難な有害植物となるため、植える場所に注意が必要である。
ソライロアサガオ Ipomoea tricolor   アサガオよりサツマイモやヨルガオに近い植物で、大型で夕方までしおれない花を房状に付ける。茎には毛(トライコーム)がなく、トゲ状の突起が発達する。 晩咲きの品種が多く、低温に耐えるため霜が降るまで咲き続ける。野生型の透明感のある青色のヘブンリーブルーの他に花色の異なる数品種が知られている。
その他のイポメア属植物 Ipomoea spp.   熱帯起源の種が多く、夏期の栽培では晩咲きのものが多く系統維持が難しいものが多い。

 

 

 

 

 

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