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大輪朝顔

  明治後期以降栽培が盛んになり、現在よく栽培されている大輪朝顔は、洲浜(retracted; re)と呼ばれる花弁の曜(維管束のある部分)の数を増やす変異と、蜻蛉葉(dragonfly; dg)と呼ばれる、曜や葉の中央裂片を伸ばす変異を併せ持つ。そのため、花では曜の数が6〜9弁に増え、曜が伸び大輪の花を咲かせ、葉は蝉葉と呼ばれる、蝉に似た形の葉をつける。肌脱ぎ(brim vein; bv)変異もを大きくすると言われているが、ほぼ全ての洲浜が肌脱ぎになるため、洲浜変異の多面発現の可能性が疑われる。蝉葉も青葉だけだと栄養成長が盛んになって花径が大きくならないとされ、斑入(variegated)や黄葉(yellow)の系統が鑑賞される。青斑入蝉葉は略称で、アフセ、黄斑入蝉葉はキフセ、黄蝉葉はキセとしばしば表記される。また芋葉(Globose; Gb)もある程度、花を大きくし、これと洲浜、蜻蛉葉変異を持つような恵比寿(えびす)葉系統も過去育成された。

↑左から洲浜葉(千鳥葉)、蝉葉、蜻蛉(トンボ)葉


黄斑入蝉葉「初霜」(京都半日会2012)

起源

大輪朝顔の起源は他の変化朝顔と同じく江戸期にさかのぼると考えられ、文化14年(1817)刊のあさがほ叢にも大輪咲のアサガオの記述がいくつかあり、例えば「葵葉菊咲」は曜の数が7曜と増加している。また「日傘(ヒカラカサ)」は大輪 大きさ渡り三寸六分(11cm)とあり、曜がかなり増加している。しかし確実に洲浜だと言えるものはない。嘉永期に出版された図譜には州浜の文字が見てとれる。たとえば、嘉永7年(1854)刊の朝顔三十六花撰には「掬水洲濱葉照千種花笠フクリン数切獅子牡丹度咲」とある。これは獅子(feathered)であり、獅子の弱い対立遺伝子の持つ獅子葉は洲浜葉によく似ているため本当の洲浜突然変異ではない。両地秋(嘉永8年刊)には鍋島杏葉館の作品である「黄洲濱葉紅カケ鳩筒ワレクルイシン一筋丁子咲芯」があり、これは狂い咲いてはいるが、比較的洲浜の特徴が出ている。この時期に存在した洲浜系統が九州の大名に渡りその後も栽培されていたと考えている。
 明治19年(1886)、旧筑前藩主黒田候(福岡)から吉田宗兵衛氏(秋草園;大阪)に「間黄洲浜葉柿覆輪四寸三分咲」が渡り、これから明治19年に村雲(黒鳩覆輪)と老獅子(大和柿爪覆輪)が生じ、翌、明治20年に村雲から五寸咲の「常暗(とこやみ;黄千鳥葉黒鳩無地)」が出た。老獅子(黄千鳥葉大和柿爪覆輪)から花井善吉氏(大阪)が「紫宸殿(青斑入千鳥葉紫天鵞絨無地;明治38年(1905)」などの一連の品種を作出し、その後の大輪朝顔の基礎を築いたと言われている。浪速蕣英会雑誌等を見ると、明治末〜大正にかけて既に蝉葉の品種はあったが、千鳥葉(洲浜葉)の紫宸殿の方が花径は大きかったようである。また、興味深いのは、鍬形葉(蜻蛉葉)の品種でも洲浜に次ぐサイズのものがあることである。その後、蝉葉系統でより大輪に咲く品種ができたため広まっていったと考えられる。塩飽嘉右衛門氏がその流れで大正8年(1919)に自然交雑品から見いだした「御所桜(青斑入蝉葉桜色無地)」は当時の最大輪、六寸七分に咲き、この子孫から宇治の里、太宰府など多数の品種が生じ、現在栽培されている系統の元祖だと言われている。大正12年(1923)に初の七寸花が咲いている。また黄(斑入)蝉葉の系統はこれら大阪の系統とは別で、明治40年に肥後朝顔(青斑入洲浜葉)と西施の誉(黄鍬形葉)を交配して作出したものだという。
  蝉葉系統ほどには大輪に咲かないが、現在でも一部で栽培されている恵比寿葉系統は昭和初期に尾崎哲之助氏によって作出されたものであり、吹掛絞などの模様花や淡黄色の月宮殿を

品種

現在主に栽培されている品種は、葉色と用途によって大きく以下の3種類に分けることができる。
青斑入蝉葉(アフセ);斑入(v1)、洲浜(re)、蜻蛉葉(dg)が複合した青斑入蝉葉を基本変異に持ち、 主に花の大きさを競う品種群。遺伝的にも大輪に咲く変異を複数保持しているが、肥培の技術も確立しており、最大で8寸(24cm)を越えることもある。行灯作り、らせん作りなどに仕立てられる。 花の大きさを優先するため、大きく咲かない色や模様の品種は無く、筒汚れ(花筒が着色する)の品種も含まれている。


行灯(あんどん)仕立てにした青斑入蝉葉の品種群。鉢が7号(21cm)なので花がいかに大きいかが分かる(日比谷公園・東京朝顔研究会)

 


螺旋(らせん)支柱で仕立てた青斑入蝉葉の白花品種「夢の雪橋」(靖国神社・東京あさがお会)。大輪には有色軸の白花品種(c1)や白種子(ca)はない。


黄斑入蝉葉(キフセ);青斑入蝉葉に加えて黄葉(y)変異を持ち、花の色や模様の美しさを競う品種群。葉色が淡いこともあり、花色が映えて見える。名古屋で発達した切り込み(盆養)作り、京都(半日会)の数咲き作りなどに仕立てて観賞される。


切り込み作りにした黄斑入蝉葉で、珍しい咲き分けの「源平」(当研究室のQ122に由来し、当初「福岡122」と呼ばれていたが、後に源平と命名した。このようにうまく咲き分けた花が展示会当日に咲くのは希有である。 この株は紫(pr)が復帰して暗紅(mg)になっているように見える。


数咲き作りに仕立てた黄斑入蝉葉品種(京都府立植物園;半日会)


黄蝉葉(キセ)黄斑入蝉葉と同様であるが、斑が入っておらず品種数は多くない。


切り込み仕立てにした、濃い茶色で有名な「団十郎」。キフセの新団十郎もある(日比谷公園:東京朝顔研究会)

 

大輪朝顔の主要な品種

以下の記述は、米田芳秋(2006)から引用したものである。

品種名 よみ 分類 花色 品種の由来・特性
紺色
早瀬 はやせ キフセ 紺青縞吹雪 紺青の縞のわりあいにかなりの変異がある。「松の雪」によく似ている。黒種子。アサガオの原種系は青~淡青である。白色の花が最初に出現したのは江戸時代以前と考えられるが、文献上では江戸時代初期の寛文4(1664)年である。次いで、紫、さらに元禄8(1695)年の「花壇地錦抄」に瑠璃色の花が記されている。京都で栽培されている。
紫の上 むらさきのうえ キフセ 紺青無地 陽光抜け筒白 東京の田口秀丸氏の作出。品種名は「源氏物語」の女主人公の名からとっている。横浜の中嶋克己氏によれば、作出者から分譲を受けた種子は、”ビロード紫大陽光”となっていたが、紺青無地花が咲いており、その後、ねずみ色や黒鳩色の花も出ている。花色の濃さと花筒の白が陽光のように鮮やかに抜けて絶品である。花弁が良質で、花切れも少なく咲きぶりは見事。葉は小形でよくしまった草姿となる。蕾つきも良いので作りやすい。花径16~17㎝。
晴海 せいかい キフセ 群青無地 東京の牧野修氏作出。空色系とも紺青系統とも別の青い花。花筒の色が残り、ややすっきりしないが大輪種では、珍しい花色。種子つきは良い。固定がなお不十分浅葱色、納戸色の花が分離するので選別が必要。草勢はやや強く、節間や葉が大きくならないように水やりをひかえめにする。
青雅 せいが アフセ 紺青無地 筒白 東京の小笠原忠八郎氏作出。旧名「雅子」だったが、後に、名古屋の白花の名品種「白雅」に匹敵するとして「青雅」と改名された。節間が短く、草勢は中性、花径は「白雅」同様20㎝を超える。主に切込み作り用。行灯作りには適さない。本種は本来紺青縞吹雪柄であるが、花冠の根元では柄模様が出ず無地花のように見える。
松竜 しょうりゅう キフセ 紺青縞 受け葉(切込み作りのつるの先端の蕾のついた葉のこと)が肥大しないように肥料はひかえめにし、花径より縞柄を重視して栽培する。大滝縞が出ればすばらしい。「松の雪」、「阿由知」などもよく似ている。名古屋では盆養切込み作りの柄物として、「彩華錦」などの鮮やかな紅縞が並ぶが、すがすがしい紺や浅葱の縞品種も栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
暁の夢 あかつきのゆめ キフセ 濃紺無地 筒白 東京の田口秀丸氏が「翁の友」(濃茶)と「碧澄」(水浅葱)を交配して、昭和49(1974)年に作出した。黄緑の葉と深い紺色の花冠の中心に大きな白い筒があり美しい。数咲き向きである。各地で栽培されている。
琴鏡変 ことかがみかわり キフセ 紫、紫紺ビロード無地 筒色 黒鳩無地花の「琴鏡」からの変化種。親品種と違った形質が現れたときに、元品種名に「変」を付加する。新形質が固定すれば新しい名前をつける。花色がビロード状に見えるのは紫や紺色の花だけのようだが、いずれも花筒に色があるのが難点。紫、紺系は草勢が強く、耐肥性も強いが、ビロード花弁は肥料による縮みなどの影響が残りやすいので注意が必要。
詩仙の月 しせんのつき キフセ 紫、紫紺ビロード無地 筒色 京都の広瀬秀一氏作出の名花。各地で古くから栽培されている。紫色が強く出て気品を感じさせる花だ。本種は草勢は中性、ビロード花は肥料残りの影響が花弁に出やすいので肥料の打ち切りは早めとする。
秋楽 しゅうらく キフセ 紺青縞 白縞がかなり少なく、地色の深い紺青が美しい。この縞は昔から友禅縞といわれたものである。各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
松籟 しょうらい キフセ 紺無地 陽光抜け筒白 本種は「詩仙の月」(紫ビロード)と「深淵」(紺大陽光抜け)との交配種。筒の大きさは「深淵」に劣るが、「深淵」の長所である色の美しさと筒抜けを、「詩仙の月」からは花弁の素直さを受け継ぎ、作りやすく、交配の代表的成功例である。きれいな筒抜けと、時折見かけるビロード気味の濃紺花弁とのコントラストがすばらしい。籟は竹の笛のこと。
松風 まつかぜ キフセ 紫紺ビロード無地 筒色 東京の小濱智氏より山田恒雄氏に贈られたもので、東京朝顔研究会の展示会で評判になり各地に広がった。開花初期の濃紫ビロードから紫紺ビロードに色変わりする。朝顔趣味家は花筒に色がつくと筒汚れといって嫌うが、「松風」の高貴な花色は筒汚れの欠点を補って余りある。葉は小形だが草勢はやや強いので草姿を整えにくい。蕾つきは良く、種子つきも良いが、花は大きくならず、せいぜい16㎝。
太平洋 たいへいよう キフセ 紺無地 陽光抜け 横浜の中嶋克己氏によると、横浜では港とプロ野球チームの色からマリンブルーが人気とのことで、横浜朝顔会の色としており、品種としては他に「深淵」、「紫の上」、「ゆかり」などが栽培されている由。「太平洋」の花も横浜の色にふさわしい。筒抜けが鮮やかなので、濃い花色にマッチして見応えがする。花弁はしっかりして花切れが少ない。節間はつまって葉も小形のため草姿を整えやすい。花径16~17㎝。
深淵 しんえん キフセ 紺無地 大陽光抜け 筒白 東京の田口秀丸氏が「雪月花」と「紫蝶の夢」の交配から得た「旭日」に、「碧澄」を交配して昭和49(1974)年に発表した優れた品種。各地で高い人気がある。深く澄んだ紺色と筒が白く、大きな陽光抜けの花は限りなく美しい。花弁の曜が硬く、弁が重なり円満に咲きにくいし、草勢が強く蕾つきが悪いため、草勢が大きくなりやすい。
新松風 しんまつかぜ キフセ 紺無地 この品種も紺も美麗であるが、花筒ののど口に色が残っている。
春雷 しゅんらい キフセ 紺青縞 名古屋の小瀬木栄一氏が昭和63(1998)年に作出。若々しい受け葉に大胆な紫紺縞のコントラストは迫力がある。しかし縞ぼけ咲きがかなりある。紫紺の色の強い縞が良い。草勢やや強く、草姿は整えにくい。名古屋で栽培。
清滝川 きよたきがわ キフセ 紺青縞 東京の樋口進亮氏作出。紺縞は紺地7分、縞(白)3分が理想的な配分とされている。また地色は濃く、縞の色は雪白に近い花を上位とする。写真の花は紺青縞に咲いた例で、縞が鮮明に出て美しい。紺縞系は草勢が強く、節間が伸び気味で、葉が大きくなりやすいので仕立てには注意を要する。
瑞光 ずいこう アフセ 紺青縞 名古屋の小瀬木栄一氏が平成10(1998)年に作出した。花径の大きさより縞の色柄を重視して栽培する。縞の色は濃い浅葱色が望ましい。種子つきは良い。
蛍狩 ほたるがり キフセ 紺吹雪 京都の奥村隆一氏が「太平洋」(紺無地)から吹雪縞の入ったものを分離選出した。吹雪斑点も条斑縞も適宜に散在し、蛍が点滅しているようで夢幻の境地に誘われる。京都で栽培されている。
初嵐 はつあらし キセ 紺縞 初代「初嵐」は京都の広瀬修一氏が作出し、京都より東京で盛んに作られた名花だが、残念ながら絶種したと思われる。現在の「初嵐」は、東京・日比谷公園の展示会において紺縞(キセ)の花が出品され色柄、草勢も似ていることから名づけられた。草勢は強く、キセとキフセが分離する(共に紺縞)のでキセ(黒種子)を選別するとよい。
松の雪 まつのゆき キフセ 紺青縞  紺色柄の花は花筒ののど口が変色する品種がほとんどだが、本種にはその欠点が見られず、花筒の白い部分がきれいに出るので人気が高い。紺色系では珍しく葉に斑の多い中性種で作りやすい。花径はあまり大きくならないので草姿が大きくならないよう、葉小に努める。黄色種子。
浅葱色
浅黄の園 あさぎのその アフセ 浅葱無地 東京の高橋宏氏が「浅黄空」×「花の園」(桃)より平成8(1996)年に作出した。「浅黄の誉」、「浅黄の輝」と姉妹品種。姉妹の中で色彩も筒抜けも一番良い。草勢、性質は「浅黄の輝」と同じ。草勢はやや強性種で作りやすいが、浅葱色の花弁は肥料が残ると変色しやすいので肥料は早めに打ち切る。種子つきも良く重要な品種である。美しい浅葱色花のほかに納戸色花の個体が分離する。花径は21㎝を超え、23㎝ぐらいまで望める。各地で栽培されている。
浅黄の輝 あさぎのかがやき アフセ 納戸無地 高橋宏氏が「浅黄空」×「花の園」(桃)の交配により平成8年(1996)年に作出。「浅黄の園」、「浅黄の誉」と姉妹品種。草勢はやや強い。肥料を濃いめに与え、水の量を少なくして、葉や茎の伸びを抑える。花径は23㎝を超える。種子つきは良い。
浅黄の誉 あさぎのほまれ アフセ 濃浅葱無地 「浅黄の園」、「浅黄の輝」と姉妹品種。「浅黄空」系の本葉は縦につまるが、大きな花を咲かせるには長めのものを選ぶ。姉妹の中で一番草姿が強性なので、葉は大きくなり節間が伸びる。肥料を多くして、水やりをひかえて伸びを抑える。花径も24㎝を超え、姉妹の中では一番大きく咲き、花弁も厚く伸びも良い。写真の花は市川二郎氏の栽培品で、花径24㎝咲である。
思い出 おもいで アフセ 濃浅葱無地 本種は東京・上野公園の朝顔展示会を主宰していた富永日正氏が選出、須田新次氏が命名した。行灯色彩花作り隆盛のきっかけとなった名花である。先行栽培されていた色彩花品種の「浅黄空」より花径は一周り大きく21㎝ぐらいまで咲き、花色筒抜けとも申し分ない。種子つきは良い。各地で栽培されている。
納戸東娘 なんどあずまむすめ アフセ 浅葱無地 東京の高橋宏氏が「紫東娘」より平成8(1996)年に選出。草勢、耐肥性などは中性で伸びも良く、24㎝を超える。この写真の朝顔はらせん作りに仕立てられている。つるはらせん状の針金に沿って巻き上がっていくので、花がどの位置で咲いても鑑賞しやすい。
社頭の納戸衣 しゃとうのなんどごろも アフセ 納戸無地 東京の市川二郎氏が「万代桃泉」に「清衣」を交配し、昭和59(1984)年に作出した。長い間、交配種「万代桃泉×清衣」として栽培し、この間、白、納戸色、桜、藤色の花が分離した。平成15(2003)年に高橋宏氏が純白花を「社頭の衣」、納戸色を「社頭の納戸衣」、桜色を「社頭の桜衣」、藤色を「社頭の藤衣」命名した。草勢、耐肥性は中性。素直に育ち栽培しやすい。花弁の伸びも善く24㎝を超える。種子つきも良好。
新竜神 しんりゅうじん アフセ 浅葱霞覆輪 大阪の池田正夫氏が交配作出したもの。昭和45(1970)年頃、「大鳥」×「初誉15号」の後代で、水色大輪が出、水と竜の深い関係から「竜神」、さらに水色覆輪が出たので、「新竜神」と命名した。先行の同色花に「銀世界」があるが、種子つきが悪く入手が困難である。本種は「銀世界」より花径は劣るが、種子つきは良く、色柄の出は優れ、色彩花の代表的品種。矮性だが作りやすく、草勢はやや弱性。各地で栽培されている。
朝霧 あさぎり キフセ 浅葱無地 陽光抜け筒白 東京の須田新次氏の命名。草勢はやや強め、スマタ(素股:葉腋に芽も蕾もつかないもの)が出やすく蕾つきに難がある。花弁の質が弱く、開花期には肥料残りに注意する。美しい筒抜けと清涼感あふれる浅葱無地の組み合わせはすばらしい。種子つきに難がある。各地で栽培されている。
清光 せいこう キフセ 極淡浅葱色 京都で栽培されている。浅葱色にも濃淡があり、淡い浅葱色を水浅葱という。
新世界 しんせかい キフセ 浅葱霞覆輪 東京の山田恒雄氏が「別世界」×「銀世界」より作出した。先行同色花の「青空」の色変わりの欠点を改良した優良品種。この「新世界」のように覆輪は深い方が鑑賞価値は高い。矮性、短幹性で草勢やや弱く、素直で蕾つきも良い。栽培しやすく、色柄、花径、草姿全てに難のない第一級の名品。開花期は早め。各地で栽培されている。
とろ キフセ 濃浅葱無地 大陽光抜け筒白 東京の樋口進亮作出。東京で栽培されている。深い幻想的な青色が名前によって現されている。浅葱色無地花の中でも一段と色が濃く、大きな白筒が映えて美しい逸品である。草勢はやや強め、スマタ(「朝霧」を参照)が出やすく蕾つきに難があり、開花期は他花に比べ遅れ気味である。結実は極めて少ない。
日本晴 にほんばれ キフセ 浅葱無地 陽光抜け筒白 花色は水浅葱より濃く、快晴の空を思わせる透明感があり、朝顔の原種系の花色に近い本種は、種子つきの悪い浅葱無地花としては結実が比較的良い。草勢やや強く、蕾つきが悪い。節間が長く、葉が大きくならないように水やりをひかえる。各地で栽培されている。
伊勢の漣 いせのさざなみ キフセ 浅葱吹雪 東京の「波涛(波頭)」が名前替えしたものといわれる。浅葱色の柄物としては縞柄が主流の中で、唯一の吹雪柄品種。縞と吹雪は混在するのでこれを専門で選別する人が必要不可欠で、これが希少品種を維持する唯一の手段である。草勢は中性で蕾つきも良く、栽培しやすい。各地で栽培されている。
碧水 へきすい キフセ 浅葱無地 紺碧の色が美しい。関西で栽培されている。浅葱色(あさぎいろ)薄い葱(葱)の葉のような色の意で、藍染めの浅い染色の薄い青色を指す。浅葱と同じ色を浅黄と書くこともあるが、この字はもともと薄い黄色を指してもいた。この図鑑では浅葱を使っている。
曲水の宴 きょくすいのうたげ キフセ 浅葱縞 東京の樋口進亮氏作出。浅葱色の色と柄の出が安定していて蕾つきも良い。草勢は中性、耐肥性ふつう、浅葱縞の花は花径が伸びないので節間と葉小に気を配る。切込み、数咲きの名花で、各地で栽培されている。名古屋の朝顔会選定の優良花。
忘れ水 わすれみず キセ 浅葱縞 京都の広瀬秀一氏が昭和28(1953)年に作出。白地部分が多い花と伝え聞いているが絶種したと思われる。写真の花は品評会では無名であったが、キセの縞柄から東京朝顔研究会であったが、キセの縞柄から東京朝顔研究会で「忘れ水」と再命名した。おそらく別種であるが、白地のきれいな、太縞を選別して名花の名前を継いでもらいたい。草勢等は不明。
初鼓 はつつづみ キフセ 浅葱縞 「初瀬」×「鼓の舞」より育成。東京、横浜で栽培されている。草姿が良く。草勢は中性で切込み作りに好適。種子つきは良い。
阿由知 あゆち キフセ 浅葱縞、紺縞 日野広一氏作出。名古屋市昭和区に阿由知通りがあり、それにちなんで命名したのであろう。語源を調べたところ、万葉集に出ている地名に年魚市潟(あゆちがた)があり、「あゆ」は湧き出るの意で、現在の名古屋市の一部にあたる入り海らしい。この言葉は「尾張国熱田大神宮縁起」では「阿由知」となっており、愛知県名の語源になっているようだ。また別の説では東風を「あゆ」と呼び、これは幸せをもたらす風であり、それが吹き寄せる場所だという。草勢が強く、葉も大きくなって作りにくい。縞がはっきり出る良いものは植物体も花も大きい。この点が葉小花大を求める盆養切込み作り用としての課題。各地で栽培されている。
鼓の舞 つづみのまい キフセ 浅葱縞 名古屋の立木徳蔵氏作出。なかなか気品のある縞柄で、縞は白勝ちが優位。蕾つきが良く、草姿もあまり大きくはならない。各地で広く栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
初瀬 はつせ キフセ 浅葱縞 この品種は浅葱の色が濃い。草勢は中性、耐肥性はふつう。浅葱縞の花としては花径が伸びる。各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
渓流 けいりゅう キフセ 浅葱縞吹雪 紫がかった青に、ごくわずかな白縞と吹雪斑が入り、まさに渓流のようである。京都で栽培されている。「渓流」からキセの「渓流の調」が出たとの説と、その逆という人もいる。
紫雲竜 しうんりゅう キフセ 浅葱縞 名古屋の立木徳蔵氏選出の「紫雲竜」は紺青縞であったが、現在では浅葱縞になっている。しかし、縞柄はなかなか目立つ濃い色で、縞はわりあい出やすく、車友禅型に出る縞は迫力がある。
藤色
明咲10号 あさ10ごう アフセ 藤覆輪 東京の芦澤恒夫氏の作出で、昭和63(1988)年交配の「弧愁変」(白)×「弧愁」(茶)から白無地花、さらに茶覆輪「湖沼の月」、藤覆輪と変化した。花名は家族の名前からの由。草勢はやや弱性。花径は21㎝ぐらいまで、種子つきは良い。覆輪を維持するためには白軸(軸とは胚軸のことで、子葉の下から根との間の部分。白軸とはアントシアンを含まず、葉緑素のみの緑色の胚軸のこと)を選別する。
薄化粧 うすげしょう アフセ 藤砂子無地 陽光抜け筒白 福岡の有本道司氏が昭和51(1976)年に作出。花弁にごく微少な点が散在するものを砂子(すなご)といい、かすんで見えるので霞ともいうが、この感じが花名によく現されている。須田新次氏の命名。「銀世界」(浅葱霞覆輪)からの色柄変わりで爪覆輪が出ることが多い。21㎝くらいまで咲く。弱性種。現在はあまり作られていない。
万博の霞 ばんぱくのかすみ アフセ 藤無地 大阪の中橋常次郎氏が昭和43(1968)年に、東京の樋口進亮氏から贈られた、藤吹掛絞りの「朝霧」(浅葱無地とは同名異品種)と八馬系「初誉」・「初娘」系を交配し、その孫世代(雑種第二代)で分離したものも大きく咲いたので昭和45年(1970)年に「万博の霞」と命名した。草勢は中性、草姿も整えやすく育てやすい。花弁の伸び、花切れも少なく、ぜひ作りたい品種である。種子つきは良い。作出されて30年以上も経つのに衰えを見せない品種はきわめて少ない。「万代桃泉」と共に名花中の名花といえよう。
社頭の藤衣 しゃとうのふじごろも アフセ 藤無地 東京の市川二郎氏作出の社頭の衣シリーズの一つ。写真はらせん作り。草勢、性質等は「社頭の納戸衣」と同じ。
宝幸大藤 ほうこうおおとう アフセ 藤無地 大阪の宝幸園作出。草勢は強く、つるが伸びやすい。耐肥性あり、蕾つきは良いが種子つきは良くない。しっかりした花弁で花径は23㎝くらいの大輪系。
宝幸白王×藤東娘 ほうこうはくおう かける ふじあずまむすめ アフセ 藤無地 大輪朝顔の展示会を訪れると、特に行灯作りのところで、2つの品種名の間に「×」の符号がついた札が立っている鉢がある。×は交配した印で、横書きの場合には、×印の左側に雌親(雌しべ親)を、右側に雄親(花粉親)を書くことになっている。人工交配は両親の良い形質を組み合わせて、新しい形質を持つ朝顔をつくるために行うが、大輪朝顔の場合は1㎜でも花径を伸ばしたいと、大きい花が咲く品種同士の交配を盛んに行っている。雑種第一代(子世代、F1)では両親の形質が合わさるが、この時に雑種強勢といって両親より優れた形質が現れることがある。雑種であっても大きな花が咲けば、そのまま評価される。雑種第二代(孫世代、F2)では種々の形質が分離するので、その中から交配目的にかなった個体を選ぶ。この後は選んだ形質を固定するために自家受粉をくり返し、固定したら新しい品種名をつける。大輪朝顔では交配種と呼んで、固定した後も×形式で栽培され、種子分譲を行っているものがある。(「社頭の納戸衣」参照)
藤寿楽 ふじじゅらく キフセ 藤吹雪 京都の久板光太郎氏が「永寿楽」から選出したといわれている。藤色地に吹雪斑点が散在して美しい。
淀の湖月 よどのこげつ アフセ 藤無地 大阪の川端利男氏が平成4(1992)年に作出。本種は大阪朝顔会の展示会において入賞花の常連であり、藤色の代表的名花。藤色の無地花としては珍しく、草勢が弱性種で芯止まり(つる先が蕾になり、行灯作りの規定の位置まで届かずに止まること)になりやすい。花弁の伸びが良く、花径は24㎝超。結実は悪い。
康11号 やす11ごう アフセ 藤覆輪 東京の芦澤恒夫氏作出。昭和55(1980)年頃、藤納戸色無地花から藤色霞覆輪に変化した花は花径22㎝を超えて咲いたが、結実少なく、年を経て種子つきの良い藤色覆輪が残った。本種は白軸、色軸(「明咲10号」参照)に別れ、覆輪は安定しない。草勢弱性種。この写真の花では、花弁の色が筒の近くで薄くなり、覆輪付近では濃く残って、花笠状である。
遠霞 とおがすみ キフセ 藤霞覆輪 昭和55(1980)年に東京の上原重雄氏が作出した「青空」(浅葱霞覆輪)の色変わり種。12輪も一度に咲くと、柔らかな藤の地色が霞のように全体にたなびいている感があり、すばらしい。色柄が安定しており、矮性、短幹性で耐肥性中性。蕾つきも良く、葉小に草姿整えやすい。黄色種子で結実が良い。
社頭の園 しゃとうのその アフセ 藤無地 東京の市川二郎氏が「万博藤霞絞」×「鷺娘」(白)より作出。「鷺娘」は「初娘」系。
藤の戸 ふじのと キフセ 藤吹雪 古名花といわれている。細い白条斑が多数入るが、曜の部分には地色がかなり残っている。粋な薄藤紫に荒吹雪、その独特の涼しげな花容で一部に根強い人気があり、愛され続けてきた。草勢やや強性、耐肥性はあるが、蕾つきが悪く、葉小に仕立てるには年季がいる。
藤筵 ふじむしろ キフセ 藤吹雪 東京の雨間秀治氏作出で、浅葱吹雪柄の「波涛(波頭)」からの変化種。同色柄の「藤の戸」より色は薄いが、花径は勝る。細吹雪が全面に出るのが特徴。草勢は中性、花弁の伸びは良く、薄藤紫の花色は清涼感を誘う。
藤の泉 ふじのいずみ キフセ 藤無地 繊細な感じの藤色が美しい。草勢が中性で作りやすい。
紫色
浮舟5号 うきふね5ごう アフセ 紫無地 東京の佐藤寛氏選出。浮舟は「源氏物語」第五十一帖の題名であり、恋の板挟みになった女性の名前である。東京朝顔研究会の展示会で記録的猛暑の平成16(2004)年に最大の花を咲かせたのはこの品種だった。(花径24.5㎝)。平成17年にも優秀花が出ており、紫無地花の有望品種。紫色や藤色の朝顔には、草勢強性種が多く、猛暑の年に強い。
新花神 しんかしん アフセ 紫紺無地 東京の市川二郎氏が昭和56(1981)年に(「花神」×「万博貴公子」)×「花神」より作出。「万博貴公子」は藤色。「花神」は中国の伝説で野山に花をもたらす神のことで、日本の花咲爺さんにあたる。紫色としてはやや草勢が弱性、肥料が強いと芯止まりすることがある。花色は光沢あり、すばらしい紫紺色である。花弁の伸びも良く24㎝を超える。種子つきは良い。
佐倉の舟歌 さくらのふなうた アフセ 紫無地 東京の芦澤恒夫氏作出。「吉祥19号」(紫)×「雷神」(藤)の交配から当初は藤色に優秀花が出たが、近年は分離した紫色が有望である。両親共に草勢が強性種なので、夏季に高温が続くと有利である。花径の伸びは、一般的には花弁が薄く伸びの良い弱性種の方が有利である。
紫垣紫雲 しばがきしうん アフセ 紫無地 大阪の林吾良氏作出。大輪朝顔では、大きくて美しい花が咲き、葉と花全体が均整のとれたものを作ることを目標にしているが、展示会では直接には見えない根張りの強さや、肥料の効き方などの生理的性質が下支えとなっている。
瑞光 ずいこう アフセ 紫無地 筒色 京都の石井竹雄氏作出。この品種もそうだが、紫系統は花筒に色がついていることが多く、筒汚れといって朝顔趣味家は嫌っている。タキイ種苗はこれの筒白を作出したとして、「平安の海」と名づけて世に出している。名古屋に同名で異品種の紺青縞がある。
万花の秀 ばんかのしゅう アフセ 紫無地 愛知県知多市の岡田清氏作出。1980年代、90年代を代表する紫の名品種。24㎝が望める花として盛んに作られたが、結実が良くなると共に花径の伸びは止まった。草勢は中性から強性。同じ蝉葉といっても品種によりかなりの違いがある。この写真の右下の蝉葉は副翼片が2枚ずつ出て、蝉の胴体にあたる中央片(主翼片)が太く、蝉葉の特徴がよくわかる。
万代紫泉 まんだいしせん アフセ 紫、紫紺無地 陽光及び大陽光抜け筒白 大阪の中橋常次郎氏作出の万代シリーズの一つで、他に桃色無地の「万代桃泉」などがある。アフセの紫色の大輪朝顔は筒抜けが不安定な花が多く、筒白と明示できる品種はほとんどない。本種は紫色系統の中では唯一の筒抜けを誇る品種であろう。草勢はやや弱性から中性、花径は21㎝ぐらいまで。
基23号 もとい23ごう アフセ 紫無地 東京の塚越藤一郎氏作出。「紫錦城」(紫無地)を片親にした紫系の交配種。写真の花は変形花だが花弁の伸びは良い。草姿強性種。大輪朝顔も畑で育てると、それほど大きな花は咲かない。朝顔趣味家が驚くほど巨大な花を咲かせるのは、初期に根張りを促進して丈夫な植物体を作り、摘芯して残した少数の蕾に栄養を集中して咲かせるからで、毎年変動する気象にも気を配りながら、展示会の日程に開花を合わせるのである。
永寿楽 えいじゅらく キフセ 赤紫吹雪 濃い地色に吹雪斑点が散在して美しい。花弁の伸びも良く、赤味のある紫に総吹雪で咲くと引き立つ。草勢等は中性で作りやすく、切込み作りに向く。種つきは良い。
万博の輝 ばんぱくのかがやき アフセ 紫無地 中橋常次郎氏が藤吹掛絞りの「朝霧」に「太平初娘」を昭和44(1969)年に交配し、昭和49(1974)年に「万博の輝」と命名した。これより8品種を分離し、「万博の輝」シリーズとした。その中の1品種である「万博の輝」は22㎝に咲いている。種子つきは良い。草勢は強性。他の7品種は「万博の藤輝」(藤無地)、「万博の桃輝」(桃無地)、「万博の白輝」(白無地)、「万寿」(茶無地)、「万博の藤輝絞」(藤吹掛絞り)、「万博の紫輝絞」(紫吹掛絞り)、「万博の紅輝絞」(紫吹掛絞り)である。
ゆかり ゆかり キフセ 紫無地 日輪抜け 田口秀丸氏作出。深い紫の美しい品種。
紫紺の光 しこんのひかり キフセ 紫無地 濃い紫地に陽光抜けの筒白が映えて美しい。数咲きでは3本の子づるに各2本の孫づるを伸ばして花を咲かせるので、各孫づるに1花咲けば6輪、2花で12輪、3花で18輪咲くことになる。
紫楽 しらく キフセ 紫無地 紫グループの中には、色調が青に近いものから赤に近いものまであり、濃淡や彩度の違いがある。この品種の色は濃いすみれ色で、陽光抜けの筒白との対照がすばらしい。
夢の浮橋 ゆめのうきはし キフセ 紫縞吹雪 品種名は「源氏物語」の第五十四帖の題名からとっている。京都の広瀬秀一氏が作出した品種は紅縞であったが、東京では紫縞、紫吹雪のものを栽培していた。写真の花は東京あさがお会栽培の「夢の浮橋」である。地色は紫から紅紫で、わりあい細い白条斑や斑点が多数走り、これらが花筒に至る前に消えて、まさに夢に浮橋の感がある。東京朝顔研究会には、芦澤恒夫氏が平成14(2002)年に再命名した紫縞の「夢の浮橋」がある。
若紫 わかむらさき キフセ 紫無地 日輪抜け 田口秀丸氏作出。紫が美しい。品種名は「源氏物語」の第五帖の題名に由来する。紫色の無地花は結実が悪く、また紫紺に色変わりしやすい。草勢が強く、水やりをひかえめにし、節間と葉小に気を配りながら仕立てる。
紅色
東娘 あずまむすめ アフセ 紅無地 日輪抜け 八馬直次郎氏の「初娘2号」(白)と初誉系「猩々舞」(紅)を東京の白川亮氏が交配して昭和41(1966)年に作出したもの。花径、花色、筒抜け、節間、葉形、着蕾などすべての点で優れた、昭和の朝顔界を代表する名花中の名花。交配親としよく使われ、各地で栽培されている。
霞紅 かすみべに アフセ 紅無地 東京の石塚修一氏が平成6(1994)年に市川二郎氏より分譲を受けた種子から出た変化より選出。平成15(2003)年に命名。紅としては草勢中性で育てやすく花弁の伸びも良く、芯止まり(「淀川の湖月」参照)がなく作りやすい。最近紅の良いものがないので、交配親として有望。花径23㎝を超える。種子つきは良い。
佐倉の舞姫 さくらのまいひめ アフセ 紅覆輪 東京の芦澤恒夫氏作出。「太古の娘」(紅)「柴垣桃園」(桃吹掛絞り)の交配から得た。胚軸に色がついているものを選んでいると覆輪が消えるので、白軸(「明咲10号」参照)を選ぶこと。草勢弱性種で、短幹性なので芯止まり(「淀の湖月」参照)にならないように注意する。蕾つき、結実は良い。この品種より桃覆輪の「佐倉の絵姿」が分離した。
太古の娘 たいこのむすめ アフセ 紅無地 愛知県知多市の岡田清氏選出花。「太古」は岡田氏の師である中田賢一氏(大阪)の系統名を引き継いだもの。草勢が強性種と弱性種の2種類があり一般に作られているのは強性種で、鮮明な紅の大陽光抜け筒白で比較的作りやすい。
平安の紅 へいあんのべに アフセ 紅無地 タキイ種苗の平安シリーズの一つ。このシリーズには、「平安の海」」(紫)、暁(濃紅覆輪)、春(桃)、粧(桃覆輪)、香(白筒紅紫)、泉(藤)などがある。
竹生紅輝 ちくぶべにかがやき アフセ 紅無地 大阪の竹元豊信氏の作出。竹生が頭につく品種は竹元氏作出である。草勢は中性、草姿も整えやすく、節間もちょうど良い。葉形も細身で翼片も長く整っていて、姿良くできる。種子つきも良い。
越天楽 えてんらく アフセ 紅縞 過去に同名の品種があったが絶種したので、浜松の兼子喜男氏が「白雅」から変化して出た類似のものを5年かけて固定し、再命名した。アフセ(青斑入葉)の切込み用品種として、名古屋で栽培されている。
金一 きんいち キフセ 紅覆輪 名古屋の小瀬木栄一氏が平成11(1999)年に作出。東京の田口秀丸氏より分譲の「金環色」の花径の大に、名古屋の深覆輪「一真」を交配したところ、ねらい通りに花径が伸び、紅覆輪の鮮やかさが強調できた。盆養切込み作りに最適の花姿である。
一真 いっしん キフセ 紅覆輪 名古屋の村瀬徳三郎氏が「紅玉の光変」より選出した(「燭光」からという説もある)。なかなか良い紅覆輪であるが、もう少し花を大きくしたい、名古屋朝顔会選定の優良花。
暁光 ぎょうこう キセ 紅覆輪 日輪抜け 鮮やかな紅色と覆輪、花筒の白のコントラストが美しい。やや矮性で短幹、葉小の理想的草姿に仕立てやすく、色覆輪柄の出も良く、栽培のしやすさから人気が高い。同名花の「燭光」と葉形葉色、性質ともに区別がつかず、異名同花との説もある。名古屋朝顔会選定の優良花。
鶏紅 けいこう キフセ 紅無地 名古屋の日野広一氏が「東山」作出に成功して間もなく、「東山」と「紅玉の光」を交配、作出したもの。花径大である。日野広一氏は20代から平成3(1991)年に58才で病没するまで、名古屋朝顔会における朝顔栽培法や交配育種の先駆者として活躍した人である。
紅玉の光 こうぎょくのひかり キフセ 紅無地 日輪抜け筒白 名古屋の立木徳蔵氏が青葉紅無地の「高千穂」より昭和36(1961)年に選出した。色、筒抜けとも安定しているが、最近の傾向として、色の出に少し物足りなさを感じる。短幹性で草姿を整えやすく、蕾つき、耐肥性はふつうで、栽培しやすい。各地で栽培される。名古屋朝顔会選定の優良花。
国の光 くにのひかり キセ 本紅無地 日輪抜け この花の紅色は本紅と呼ばれ、紅色花の最高峰である。戦前種で戦後池田喜兵衛氏の維持品種から出たものといわれる。時折見せるこの花の色の見事さが朝顔愛好家の心をつかんできた結果だろう。草勢中性、スマタ(「朝霧」参照)になりやすい。戦前種としてはほかに「彩華錦」が昭和15(1940)年に、「天津」が終戦の昭和20(1945)年に作出されており、いずれも60~65年間も愛好されてきたことになる。
左京一笑 さきょういっしょう キフセ 紅無地 東京の樋口進亮氏の作出。樋口氏が広瀬秀一氏の葬儀に献種したもので、京都で栽培され、広瀬氏の雅号一笑園と住所のあった京都市左京区を基に命名された。鮮やかな紅無地。すっきりした日輪抜け筒の周囲を、非常に美しい本紅の花弁が取り巻く。種子が細長いのも特徴の一つ。京都を中心に各地で栽培されている。
燭光 しょっこう キセ 紅覆輪 京都の広瀬秀一氏の選出。覆輪の白と日輪抜けの花筒がバランスを保ち、間の紅地が眼の覚めるような鮮やかさである。わりあいに作りやすく、覆輪もよく出るので愛好され、各地で盛んに栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
花一番 はないちばん キフセ 紅無地 京都の花。花色はパステル紅と呼ばれており、ややくすんだ紅色が美しく出る場合と、ややぼける場合がある。京都の人達はやや中間色的な柔らかい色をいとおしむ気持ちが強いようだ。着蕾しやすく、作りやすい。
新高千穂 しんたかちほ キフセ 紅無地 日輪抜け 高山増吉氏が選出したもので、「紅玉の光」と姉妹種である。なお「高千穂」はアフセ紅無地である。超矮性、短幹性で栽培条件に恵まれない人には作りやすい。葉小花大の代名詞のような品種。時折本紅のすばらしい花が出る。
紅扇 べにおうぎ キフセ 紅無地 日輪抜け 平成8(1996)年頃に東京の牧野修氏が作出し、選別。本種は花切れが少なく、花径が大きく伸びるので最近人気が高い。花色は青味を帯びる年もあり安定しない。草勢はやや強性。蕾つきが良く、耐肥性あり。19㎝まで咲く。
東山 ひがしやま キフセ 紅無地 名古屋の日野広一氏の作出で、小瀬木栄一氏によると「紅玉の光」×「白妙3号」の交配種という。名古屋の朝顔会選定の優良花。色良く、花筒大きく、花径大で、作りやすい。草姿も良く、種子つきも良く、誰にでも向く盆養切込み作りの最適品種である。京都の東山連邦も有名だが、この花は名古屋の東山にちなむ。
栄冠 えいかん キフセ 紅縞 東京の田口秀丸氏の作出。はっきりした大小の縞が走っている。灼熱の赤に縞が入るといっそう派手になる。本種は紅縞花の花径の常識をはるかに超える19㎝の花が咲いたこともある。もちろん切込み作りにそんな花径は必要ないが、縞の出も良く、時に無限の可能性を感じる花である。草勢は中性、栽培しやすい。
一幸 いっこう キフセ 紅総吹雪 京都の芝原幸一氏の交配種で、品種名は名前を逆転したもの。微細な吹雪縞がすばらしい。この品種はガーデンライフ編「朝顔作り方と楽しみ方」(1977年)の扉絵を飾っている。今でも京都、大阪ではよく栽培されている。芝原氏は京都半日会で数咲き作りの第一人者として活躍した。
彩華錦 さいかにしき キフセ 紅縞 筒白 名古屋の彩華園立木徳蔵氏が昭和15(1940)年頃選出した古名花。紅縞が非常に鮮明で、旭光柄縞が最も多い。名古屋の秘蔵品種であったが、今では東京でも関西でも広く栽培されている。草勢は中性、蕾つきにやや難がある。新しい品種が続々と誕生する大輪品種にも、本種のように長年にわたって愛好されているものがある。縞柄といえばこの花の名前が出るほどで、「桜吹雪」と共に紅柄物の双璧で人気がある。名古屋朝顔会選定の優良花で、この会のシンボルとしてTシャツにプリントしている。
採光 さいこう キフセ 紅縞 時折この品種から白地に色縞の花を見る。白地部分が他の品種と比べて多いようだ。草勢はやや強め、蕾つきにやや難があり、節間、葉柄の伸びに注意。この「採光」が基で、「彩華錦」、「採光錦」が由来したという説もある。
香炉峰 こうろほう キフセ 紅縞 東京の樋口進亮氏の作出。「枕草子」の有名な「香炉峰の雪はいかならん」の言葉にちなんで、美しい縞を紅地に描かれた雪とみなして命名したのであろう。樋口氏は写真家として活躍された方で、朝顔趣味家としては特定の大輪朝顔会に所属せずに、東京から関西方面をひんぱんに訪れて交流を深め、特に切込み品種を改良育種した方である。
桜吹雪 さくらふぶき キセ 紅吹雪 東京の上原重夫氏が「京北の桜」から自然に変化したものを昭和45(1970)年に選出。この品種は名前のとおり、濃いめの紅地に細い条斑と斑点が吹雪のように花冠全体に広がって(総荒吹雪)美麗そのものである。江戸っ子遠山の金さんの花として東京の代表花である。色柄共に良く固定している。草勢は中性、蕾つきにやや難がある、節間、葉はしまり気味で栽培しやすく、やや早咲。どこの展示会でも見られる名花。
彩光錦 さいこうにしき キフセ 紅縞 「採光」と「彩華錦」、「採光錦」は名前も縞もよく似ている。大輪朝顔切込み作りでは葉を小さく、花を大きく育てる。(葉小花大)ことを理想とする。作出者が交配したり、選抜したりして遺伝的に優れた品種を作るが、その花を大きく、全姿を均整のとれたものに育てるのは栽培家の丹精である。
千羽鶴 せんばづる キフセ 紅縞 東京の田口秀丸氏が「香炉峰」を改良して作出。縞物では縞が全体の7割くらいを占めるのが良いとされるが、紅縞は五分五分が良い。草勢はやや強め、節間、葉柄の伸びに注意。
猩々の舞 しょうじょうのまい キフセ 紅縞 名古屋朝顔会選定の優良花。同名で東京の白川亮氏「太平の誉」系、「初誉」系から作出した鮮紅無地または覆輪がある。嘉永7(1854)年に出た「朝顔三十六花撰」には赤系の色として極紅、猩々紅、本紅、紅、紅柿、大和柿、緋などがある。猩々は能や舞踊にも登場する想像上の動物で、赤い髪をして酒を好む
初舞台 はつぶたい キフセ 紅吹雪 「新高千穂」からの自然交配による分離であろう。柄物の良否の判断の一つに色の濃淡がある。本種は色の出が良く、結実も良く、今後が期待される。草勢はやや強め、節間、葉柄の伸びに注意。
桃色
浦霞5613号 うらがすみ5613ごう アフセ 薄桃無地 東京の加藤俊雄氏作の浦霞シリーズの一つ。(「清衣」×「万代桃泉」)×「桃星」のF1で花径24.5㎝の花が咲いた。種子つきは良い。両親系統と比べて、雑種第一代(F1)に優れた性質が現れることを雑種強勢という。大輪行灯作りでも現在多元交配のF1花を用いて花径を伸ばそうという考え方が主流となっていて、特に弱性種同士の交配が流行している。
国津笑顔 くにつえがお アフセ 桃無地 平成14(2002)年に池田正夫氏が紫無地の「万博の輝」から桃色に自然変化したものを選出した。国津は池田氏の故郷、名張市国津にちなむ。草姿が良く整い、蕾つき良く、多肥を好むが肥料あたりはない。22以上の大輪花で、花弁が厚く垂れることなく、鑑賞価値も高く、栽培しやすい。
佐倉の桃 さくらのもも アフセ 桃無地 平成2(1990)年、千葉県佐倉の本戸嘉明氏が知多市の岡田清氏より「朝倉」の仲間の種子分譲を受け、花名を新しくつけたいとのことで、芦澤恒夫氏が佐倉の名を冠して命名した。草勢は中性種、作りやすく、種子つきが良い。
佐倉の絵姿 さくらのえすがた アフセ 薄桃無地 東京の芦澤恒夫氏が「佐倉の舞姫」(紅覆輪)から分離、選出。花径は「佐倉の舞姫」に劣るが花切れが少ない。覆輪花の胚軸の色は緑(大輪趣味家は白軸という)で、本種の覆輪の出は安定している。草勢は弱性種、結実は極めて悪い。この花は覆輪があり、筒の白い部分から花の地色が薄くなり、また覆輪付近の地色が残っている。花笠という。
不二の誉 ふじのほまれ アフセ 薄桃色 砂子刷毛目 名古屋の村瀬二郎氏が選出。さっぱりとしたピンクの糸縞(刷毛目)は可憐な乙女の夢を思わせる。淡い色で良い。なかなか種子が採れにくい。名古屋朝顔会の競技花の一つである。競技花とは朝顔会が特に品種を指定して、競技花の間で容姿美を競うもの。名古屋では競技花の部のほかに無地、覆輪、柄物の部がある。
柴垣の桃 しばがきのもも アフセ 桃無地 「柴垣桃園」(桃吹掛絞り)の色柄変わりで、佐倉の本戸嘉明氏の圃場で芦澤恒夫氏が選出。「柴垣桃園」は25㎝超に咲いたが、本種は花径では劣るが丈夫で栽培しやすい。やや薄桃色の巨大輪で24㎝程に咲く。草勢は弱性種。大輪の中でも巨大輪に咲く品種としては白、桃色、藤色などの薄い色の花が多い。
竹生桃寿 ちくぶとうじゅ アフセ 桃無地 大阪の竹元豊信氏の作出。竹元氏の作出品種は苗字と住所の大阪市生野区より1字をとって竹生(ちくぶ)を冠している。肥料に強く、開花最後まで肥料を絶やさないように栽培するのがコツである。したがって蕾つきはやや劣る。開花すれば超巨大輪に咲くが、採種はごくわずかで、一般には栽培しにくい。
新天津 しんてんしん アフセ 桃無地 日輪抜け筒白 東京の市川二郎氏が「天津」×「初娘」より昭和40(1965)年に作出した。「初娘」が八馬系統。「天津」は昭和20(1945)年に東京・三鷹の内藤愛次郎氏が選出したもので、花弁が厚く、花切れが少ない性質が好まれ、盛んに栽培された。「新天津」は草勢が弱性で耐肥性も弱く、やや作りにくいが花弁の伸びが良く、姿良くできる。花径は24㎝を超える記録がある。種子つきは良い。交配親として盛んに利用された。
万代桃泉 まんだいとうせん アフセ 桃無地 大阪の中橋常次郎氏が昭和56~57(1981~2)年に発表した万代系統の一つで、万代は中橋氏の住所の大阪市住吉区万代に基づいている。万代の住所としての読み方は「ばんだい」であるが、大阪朝顔会では前から「まんだい」と慣用的に呼んでいるので、ここではそれに従った。この品種は発表以来各地の朝顔会で盛んに栽培され、交配親としても使われている。草勢は桃色では中性である。育てやすく花切れは少なく、花弁は柔らかく、伸びが特に良い。展示会では毎年上位に入賞をしている。花径25㎝を超える。種子つきは良い。
宝幸桃仙 ほうこうとうせん アフセ 桃無地 大阪の宝幸園作出。園主は片山義彦氏。宝幸園は菊、朝顔改良の専門店として特に白花の優れた品種を世に出している。
松の桜 まつのさくら アフセ 桜無地 東京の高橋宏氏が「桜泉清衣」×「桃星」より平成9(1997)年に作出。白、桃色が分離しているので「松の白桜」、「松の桃桜」として命名。草勢は中性。花色は優しい色で花弁の伸びが良く24㎝を超える。種子つきはやや難。
巫女の舞 みこのまい アフセ 桃無地 東京の市川二郎氏が「新天津」×「初娘2号」より昭和49(1974)年に作出。
新花王 しんかおう キフセ 桃無地 東京の上原重夫氏が「古城の月」×「京北の桜」から昭和32(1957)年に作出。濃い桃色と深い覆輪の「新花王」は、牡丹の花を思わせる華麗で優美な花だ。花切れが少なく丈夫で、草勢は中性、短幹性で仕立てやすい。
桃三夏 ももさんか アフセ 桃無地 東京の石塚修一氏が平成11(1999)年に「桃泉清衣×桃星」と「桃泉」を交配。平成12年にF1(雑種第一代)で24㎝に咲かせ、平成15(2003)年に固定、命名した。作りやすく蕾つき、花弁の伸びが良く、花切れも少ない。種子つきも良い。
淀の桃千両 よどのももせんりょう アフセ 桃無地 大阪の川端利男氏作出。川端氏の作出品種には頭に淀がついている。1980年代の大阪朝顔会のアフセの品種は名実共に朝顔界を席巻した。本種もその頃の桃無地の花形品種、美しい桃色が印象深い。やや強性種。
豊15号 ゆたか15ごう アフセ 桃無地 東京の湊明久氏が平成9(1997)年に「佐倉の華」(朝倉系桃色)と「白拍子」(吉祥系白)の交配から作出した。作出者は好みの言葉や地名などを選び、その後に番号をつける人もいる。また番号をつけた後で、番号を言葉に変更する人もいる。草勢は中性種。
淀の桃水車 よどのももすいしゃ アフセ 桃無地 大阪の川端利男氏作出。1980年代大阪朝顔会のアフセの名花、「淀の水車」(藤無地)は24㎝強の花径を誇る主力種であったが、本種はその色変わりであろう。
花平 はなへい キフセ 桃覆輪 名古屋の小瀬木栄一氏が「花王」×「平安の美」より平成11(1999)年に作出。京都の石井竹雄氏作の「平安の美」の花色に京都の雅やかさを感じ、これに昔からある「花王」を交配して、数年間でやっと深い覆輪花の作出に成功した。
天下一 てんかいち キフセ 桃深覆輪 宇治朝顔園作出。京都府宇治市にある宇治朝顔園は明治10(1880)年頃の創業で、朝顔園の老舗。数咲き作りで覆輪の花が重なり合うと、まさに花の十二単衣である。
あけぼの キフセ 桃無地 「枕草子」の「春は、あけぼの」がすぐに頭に浮かぶほど、なごやかな桃色である。京都の数咲き作りは平安時代の雅の世界が精神的な起源になっているのではなかろうか。まさに京風数咲きである。
桃玉譜 とうぎょくふ キフセ 淡桃無地 非常に淡い桃色花が清らかな雰囲気をかもし出している。
新戸部の誉 しんとべのほまれ キフセ 桃霞覆輪 陽光抜け 桃色地には微細な刷毛目条がある。この品種の基は昭和30(1955)年以前のアフセの「不二の誉」である。昭和30年頃、「不二の誉」から覆輪が出たので作出者の後藤新作氏が住所(名古屋市南区戸部町)にちなんで「戸部の誉」(アフセ)と命名した。さらに数年後、キフセに転化したので、新の字をつけたのが本品種である。色柄共に安定しており、短幹性で葉もしまり仕立てやすい中性種。種子つきは良い。名古屋朝顔会の競技花。
平安の光 へいあんのひかり キフセ 桃無地 名古屋朝顔会の小瀬木栄一氏が平成12(2000)年に作出。京都の「平安の美」(桃無地)の花色を基に、花径を大きくしたいと東京の桃無地巨大輪「百草の光」を交配作出した。蕾つき良く、盆養作りで花径20㎝の望みがある。
桃香殿 とうこうでん キフセ 桃覆輪 作出者ははっきりしないが、名古屋朝顔会の保有種「花王」の覆輪の良いもの同士を交配して得た深覆輪品種。草姿良く、蕾つきも良く、葉小花大で、作りやすい。名古屋朝顔会選定の優良花。
御幸の誉 みゆきのほまれ キフセ 薄桃刷毛目縞 名古屋朝顔会の競技花の一つ。名古屋の競技花はアフセの「不二の誉」だけであったが、昭和35(1970)年頃、寺沢金重氏が栽培中にキフセを見つけ、これが葉柄も小さく、蕾つきも良かったので数年試作して固定した。葉小花大の良花である。花名は寺沢氏の住所、名古屋市中区御幸本町の地名にちなむ。草姿良くまとまり、盆養作りにはぴったりの品種。
白色
吉祥15号 きっしょう15ごう アフセ 白無地 東京・吉祥寺に住んでいた君島真一氏は1980年代後半から交配種を発表したが、年々数が増え「吉祥」の名で出すようになった。交配の片親には「住吉の衣」を常に使用した。
銀麗変 ぎんれいかわり アフセ 白無地 東京の市川次郎氏が昭和55年に作出したもので、本来は薄紫砂子覆輪で、花径22㎝くらい。白花の変化種である。
清衣 きよごろも アフセ 純白 東京の市川二郎氏が昭和58(1983)年に「福島の清雪」と「住吉の衣」を交配、作出。親品種からそれぞれ1字を取って命名した。交配親として使われている。草勢は中性で、花弁の伸びも良い。
隅田の雪 すみだのゆき アフセ 白無地 東京の高村市朗が昭和54(1985)年頃に「宝幸曙」(白筒紅)を交配片親にして作出した。花名は東京の隅田川にちなむ。兄弟種に「隅田の誉」(白筒紅)がある。花弁が薄く花弁が垂れるが驚くほど伸びる。草勢は弱性種。
白雅 はくが アフセ 白無地 名古屋の小瀬木栄一氏が昭和55(1980)年に選出。薄茶無地の「東亜の光」はぼけてくすんだ色で余り感心できなかったが、毎年くり返し栽培しているうちに純白に固定した。アフセでは珍しく草姿が良く整う。葉小花大に育てる切込み作り向きの品種。
万博の女王 ばんぱくのじょおう アフセ 白無地 大阪の中橋常次郎氏作出の万博シリーズの一つ。「万博の女王」は純白花と白色花冠で筒淡紫に分離している。
日の丸 ひのまる アフセ 白花 底紅紫 花筒が紅紫色のため日の丸に見える。タキイ種苗の平安シリーズにある「平安の香」は、この品種と同じとのこと。
住吉の衣 すみよしのころも アフセ 白無地 大阪の南野文彦氏が昭和53(1978)年に「住吉の藤衣」より分離したもの。「住吉」は住所の大阪市住吉区にちなむ。東京あさがお会の宇田川弘之氏が昭和53(1978)年にこの花で25.2㎝の花を咲かせたのが、東京あさがお会としての行灯作りの生花記録。草勢は中性で姿良くでき、作りやすい。花色は純白から若干色がつくものも分離しているが、厚弁で伸びが良い。種子つきはやや難。この花は白の伝説的名花で、交配の片親としても重要な品種。
福島の清雪 ふくしまのせいせつ アフセ 白無地 広江清孝氏が交配作出した品種で、住所の大阪市福島区にちなんで命名。昭和52(1977)年以来盛んに栽培されている。葉が大きく草勢は強性で肥料に強く、したがって蕾がつきにくい。花弁の伸びが良く、花径は押し花で27㎝の記録がある。
宝幸花王 ほうこうのかおう アフセ 白無地 筒薄紅 宝幸園主の片山義彦氏は長年にわたって朝顔に興味を持ち、独自の品種を作出した。本種は白に珍しく種子つきが良い。23㎝を超す花径の花として有難い存在である。草勢が素直で蕾つきも良く、節間も程よくつまり栽培しやすい。耐肥性が強いので肥料過多に注意。
宝幸白大臣 ほうこうはくだいじん アフセ 白無地 筒薄紅 大阪の宝幸園が作出。宝幸園は菊、朝顔改良の専門店として特に朝顔の白花の優れた品種を世に出している。本種はすでに花径が退化したようで、最近大きな花を見ない。草勢はやや強性だが、耐肥性強いので肥料過多に注意。
宝幸白王 ほうこうはくおう アフセ 白無地 大阪の宝幸園が作出。この花は30年以上の歳月を経ているが、花径の衰えはない。平成14(2002)年に24.6㎝の花が咲いている。純白で「住吉の衣」と共に戦後の白花の代表だろう。草勢はやや弱性だが、耐肥性が強いので強性と間違えられる。肥料過多に注意。
白妙3号 しろたえ3ごう キフセ 白無地 樋口進亮氏作出。厚弁で花はたっぷりと咲く。草勢やや強く、節間がやや伸びやすい。花は雄大に咲くが蕾つきは極端に悪い。名古屋朝顔会選定の優良花。
雪月花 せつげっか キフセ 白無地 東京の田口秀丸氏が桃深覆輪の「百万石」に「夢の白雪」を交配し、その雑種第二代の純白花に「初誉紅」を交配し、昭和31(1966)年に育成した切込み作りの優れた品種。雪白の花色は実に美しい。この花によって白にも色があることに気づかされた。切込み作りで花径22㎝を超える記録がある。花弁は薄く、垂れる。草勢はやや弱性で葉はしまり、作りやすいが、種子つきは悪い。各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
銀妙 ぎんしょう キフセ 白無地 小瀬木栄一氏が平成8(1996)年に作出。アフセ「銀宝珠」の巨大輪に魅せられ、同じ白無地の「白妙3号」と交配し、4年目くらいで固定した。大輪純白で入賞花が多い。花弁はやや薄い。名古屋朝顔会選定の優良花。
都鳥 みやこどり キフセ 白無地 東京の高村市朗氏の作出。花弁は厚弁で白地。やや矮性、短幹性で草姿端麗にしあがる。蕾つきに難がある。
源平 げんぺい キフセ 白地紫時雨絞 花冠の一カ所に紫の条斑が見える。条斑の数が少ないので園芸的に時雨絞りというが、品種によっては多数の条斑がでるものもある。この時雨絞りは18世紀前半に出現したようで、黒白江南花、白川朝顔、絞りあさがおなどと呼ばれて珍しがられ、三村森軒「朝顔明鑒鈔」(1723年)や平賀源内の「物類品隲」(1762年)に記載されている。
福岡122 ふくおか122 キフセ 白地紅時雨絞 九州大学の仁田坂英二氏が保存維持している大輪系統Q122の種子を、東京の高橋宏氏が譲り受け、「福岡122」と名前替えしたもの。「源平」で説明したように条斑が小さい場合は斑点、大きくなると太い条斑が小さい場合は斑点、大きくなると太い条斑や花のかなりの部分に色が出る(染分け)、さらに拡大すると花全体が有色となる(咲分け)。草勢はやや強性、節間が伸びやすいのでしめて作ること。小鉢上げの時に、茎に赤い縞がはっきり出ているものを選ぶとよい。種子つきは良い。
淡黄色
右近 うこん アフセ 薄黄 小松園種由来のものから右田重雄氏が選出したといわれている。現代の朝顔には黄色がないが、江戸時代の変化朝顔の図譜を見ると、「極黄」とか「菜の花のごとし」と説明つきの濃い黄色の花が描かれている。おそらくかなり濃い黄色の花があったのであろう。この「右近」は蝉葉であるが、花弁はやや縮れ気味であまり大きく咲かず、薄い黄色の花弁に時に赤い斑点が出る。
月宮殿 げっきゅうでん アフセ 薄黄 変化朝顔や普通の小輪では黄色味が濃く出やすいが、大輪では蕾の色が濃い黄色でも花弁が展開すると薄くなる。この品種は尾崎哲之助氏が育成したもので、昭和46(1971)年出版の「朝顔抄」の扉絵を飾っている。著者もこの年の夏に富士宮の朝顔園(富士花園)で尾崎氏と面談したが、以後しばらくこの品種を栽培していた。なお尾崎氏は昭和12(1937)年頃、らせん作りを考案した人である。
茶色
秋の幸 あきのさち アフセ 茶無地 京都の西村尚郎氏がアフセの「千里の馬」とキフセの「翁の友」を交配して作出した。「千里の馬」は時として花切れを起こしやすかったが、その点が改良された。
喜撰 きせん アフセ 濃茶無地 名古屋の加藤角太郎氏作出の名花。花名は平安期の六歌仙の一人喜撰法師にちなんだものだろうか。渋い高尚な茶色で、玄人向きの優良種である。草姿がアフセのため肥大するので草姿作りが難しい。名古屋朝顔会の佐々井光太郎氏は朝顔人生を「喜撰」の栽培のみで終わった大の喜撰マニアであった。葉小花大に少し留意して栽培すべき品種である。名古屋朝顔会選定の優良花。
信濃柿 しなのがき アフセ 茶覆輪 日輪抜け筒白 飯田の今村義夫氏の茶覆輪×「東娘」より中村長次郎氏が昭和46(1971)年に選出したもの。20㎝位の中輪種だが色柄の安定した優秀花。草勢やや弱性、節間が程よくつまり、葉も斑の出が程よく栽培しやすいが、蕾つきは悪い。
弧愁 こしゅう アフセ 茶無地 東京朝顔研究会が昭和61(1986)年に宝幸園から分譲を受けた「宝幸紺紅」より茶無地花が分離したので、須田新次氏が昭和62(1987)年に命名した。草勢は強性で耐肥性もある。茶の大輪を咲かすのは実に難しい。品種が少ない上に、種子ができにくく、蕾の生育段階で故障を起こすため、円満に咲く確率が低い。咲けば花弁はしっかりして23㎝くらいの大輪となる。東京、横浜で栽培されている。
東京娘 とうきょうむすめ アフセ 濃茶無地 「東娘」の変化したものから昭和58(1983)年に市川二郎氏が選出した。茶色の花としては草勢は中性。芯止まり(「淀の湖月」参照)も少なく作りやすい。近年色が濃くなってきた。花弁の伸びが良く花径23㎝を超える。種子つきは悪い。
虚心 きょしん アフセ 茶縞 名古屋の寺沢金重氏が「不二の誉」より選出。アフセの切込み作り用品種で、枝葉の生育が旺盛なのでやせ気味に作るとよい。一般的な肥料を与えると種子は採れない。色勝ちの縞が出てほしいが、白勝ち縞が出やすく作りにくい品種。名古屋朝顔会選定の優良花。各地で栽培されている。
茶庭 ちゃてい アフセ 茶無地 東京の牧野修氏が「弧愁」より選別したとされるが、現在では全く区別がつかない。時折22㎝クラスの花を見る。嘉永7(1854)年に出た「朝顔三十六花撰」には茶色系として小豆色、煤竹、テリ渋色、千種、白茶、栗梅、藤海老、銅色などの花がある。元禄時代に四十八茶百ねずみといわれたように、多数の茶色やねずみ色が流行したことも背景にあり、花色としては珍しいこともあって茶色の朝顔も愛好された。
千里の馬 せんりのうま アフセ 茶無地 日輪抜け筒白 大阪の中村長次郎氏が「初娘」・「初誉」系より昭和46(1971)年に作出した。大きさを競う行灯作りでは白、桃、藤色などの淡色系の方が花径が伸びるといわれてきたが、この品種は茶色花で初めての24㎝ほどに咲いたという伝説の名花。中村氏の住所の千里丘陵にちなんで命名されたもの。現在の「千里の馬」は明らかに別の花である。先代の「千里の馬」は明るい薄茶だったが極端に種子つき悪く、おそらく絶種したのだろう。二代目は濃いめの茶色で花径は20㎝程度。各地で栽培されている。
五茶 ごちゃ キフセ 茶深覆輪 名古屋の小瀬木栄一氏が平成11(1999)年に作出。名古屋で昔からあった品種は覆輪は深いが花径がやや貧弱だったので、花径を伸ばす目的で茶覆輪の「茶園の月」を交配片親に使った結果、気に入るものが作出できた。茶の覆輪種には草勢が強い品種が多い。節間は短いが葉は肥大しやすい。各地で栽培されている。
秋の声 あきのこえ キフセ 茶無地 大陽光抜け筒白 東京の田口秀丸氏が「暗香」と「紅縞」を交配して、赤味茶の特大陽光抜けを昭和47(1972)年に作出した。地味な色だが味わい深い逸品である。種子つきは難。茶の花はスマタ(「朝霧」参照)も出て、蕾つきが悪い。草勢は弱く、草姿は整えやすい。東京で栽培されている。
ほととぎす ほととぎす アフセ 茶覆輪 大阪、東京で栽培されている。草勢は中性。耐肥性も中性。作りやすい。現在青葉で大輪に咲く茶の覆輪は少なく、大切にしたい品種である。花径は22㎝を超える。種子つきはやや難。
翁の友 おきなのとも キフセ 渋茶無地 大陽光抜け筒白 東京の田口秀丸氏が「八馬」系と芝原幸一氏の「暗香」を交配し、昭和44(1969)にアセ黒茶を得、次いでキフセ黒味茶を作出、昭和48(1973)年に命名した。渋茶刷毛目ともいわれ、花弁地に繊細な刷毛目模様がある。草勢やや弱性、節間はつまり、葉はしまりやすく切込み作りに仕立てやすい。蕾つきは良いほうだが結実は少ない。
秋霜 あきしも キフセ 茶吹雪 茶色というと秋の枯れ野や枯れ葉を想像し、夏が終わったという寂しさがつきまとう。朝顔の花名でも、茶色系には茶と共に秋の字がよく使われる。この花は、白柄が強く出すぎて花の先端がぼやけて見えるので、いっそうの選別が望ましい。草勢は弱性種。
茶園の月 ちゃえんのつき キフセ 茶覆輪 東京の上原重夫氏作出の茶覆輪の代表的名花。覆輪は幅の深いほど良いとされるが、この品種の覆輪は理想的である。草勢やや強、草勢作りには水やりをひかえる。やや遅咲。各地で栽培される。名古屋朝顔会選定の優良花。
古雅 こが キフセ 濃茶無地 京都の伊藤穣士氏が昭和36(1961)年」に「団十郎」を改良して得たもの。花の大きさは今一つだが、高尚な品位のある茶色で、草姿作りもまとまりも良く、雅やかさを感じさせる。写真は数咲き作りで8輪咲。京都では数咲き作りで24輪咲きの記録がある。各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
新団十郎 しんだんじゅうろう キフセ 濃茶無地 日輪抜け 東京の君島真一氏が平成12(2000)年にキフセの「団十郎」に斑を入れる目的で「古雅」と交配し、田口秀丸氏、荒木延子氏が協力して後代選抜し作出した。上記の交配の中から特に大日輪抜け黒味茶を選抜し、先行種を超える存在となった。草勢はやや弱性、花系16㎝前後。各地で栽培されている。東京朝顔研究会の特別競技花。
団十郎 だんじゅうろう キセ 濃茶無地 日輪抜け 戦前、吉田柳吉氏が「花王」から分離選出したものを伊藤穣士郎氏が保存維持して伝えたといわれている。江戸時代に二代目市川団十郎が「暫(しばらく)」の衣装に柿色の素襖(すおう)を用いて一躍人気を博し、この色が団十郎茶として流行した。朝顔でも古くから茶色無地や茶覆輪花を「団十郎」と命名してきたらしい。品種名が印象的であり濃い茶色も花としては珍しいので、各地で人気を博している。草勢は弱性種だが葉は斑なしのため、肥大するので幼苗のうちから水やりをひかえめにする。着蕾、結実共に悪く栽培しにくい品種。東京朝顔研究会の特別競技花。
豊醇 ほうじゅん キフセ 茶無地 東京の樋口進亮氏が昭和51(1976)年に作出。現在、茶色の朝顔の切込み用キセの中では「中秋」(茶無地)と共に最大の花が咲く品種である。残念ながら種子は極めて少ない。草勢は中性、花弁は肥料あたりが出やすいので早めに肥料を切る。花径は18㎝以上になる。
茶の鼓 ちゃのつづみ キフセ 茶覆輪 日輪抜け 名古屋の日野広一氏が作出。花弁がしっかりして花切れが少ない。濃い茶色なので深覆輪に咲いたときは見事で、数咲きにした時はいっそう華やかである。葉は小さめで節間がつまるので、草姿は整えやすく、蕾つきが良い。花径16~17㎝。名古屋朝顔会選定の優良花。
折鶴 おりづる キフセ 海老茶縞 やや赤味を帯びた茶縞で、縞柄の出は良いが色が薄い難がある。草勢やや弱く、スマタ(「朝霧」参照)が出やすく、着蕾、結実共に悪い。
神楽 しんらく キフセ 茶縞吹雪 東京の上原重夫氏作出。茶色地に白い条斑はかなり短く、斑点も散在している。発表当時は茶吹雪の名品として名をはせたが、近年は茶縞の逸品としての評価が高い。草勢やや弱く、葉に斑が出にくく、葉は大きく育ち気味であり、スマタ(「朝霧」参照)が出やすく、着蕾、結実共に悪い。名古屋朝顔会選定の優良花。
長寿 ちょうじゅ キフセ 茶縞 東京の田口秀丸氏作出。茶縞が鮮明に入り美しい。茶縞の出が優秀な上、色も濃いめの名品で評価が高く、現在の茶縞としては最高品種である。草勢やや弱く、仕立てやすい品種だがスマタ(「朝霧」参照)が出やすく、着蕾、結実共に悪い。
利休 りきゅう キフセ 濃茶無地 京都の西村尚郎氏の作出。京都半日会の名花。無地であるが縦に縞が薄く入り、刷毛目模様のように見えることがある。草勢は中性で作りやすく、切込み作りに向く。
十六夜 いざよい キフセ 茶吹雪 「新流星」(黒鳩縞吹雪)の変化したものから東京の雨間秀治氏が選出。白の条班、斑点共に多く、華やいだ雰囲気をかもし出している。茶吹雪の柄の出が良い優良種で、葉に斑が出るタイプと出にくいタイプがある。吹雪柄を維持するには、葉に斑が出にくいタイプを選別すると良い。草勢やや弱く、茶色の花として珍しく作りやすい。開花期やや早めで、各地で栽培されている。過去に同名の品種があった。
淡々 たんたん キフセ 薄茶吹雪 淡い茶色地に吹雪が入り、名前の示すとおり淡々とした印象を与える。京都で栽培されている。
黒鳩
月の嵐山 つきのあらしやま キフセ 黒鳩無地 陽光抜け筒白 京都の西村尚郎氏が交配作出したもの。京都で栽培されている。最も色の濃い黒系では、尾崎哲之助氏作出の「鳥羽玉」、「黒雲」など大輪に咲く品種もあるが、ほとんどが切込み作り用品種である。
ひびき キフセ 黒鳩無地 日輪抜け 古くからあった「轟」(黒鳩無地)に似た花。種子の採取が難しい黒鳩無地花としては種子つきも良く、色の出も安定しており黒鳩無地花の代表的品種。草勢はやや強く、耐肥性は弱性、栽培全期を通じて薄めの肥料で仕立てると良い。
琴鏡 ことかがみ キフセ 黒鳩無地 陽光抜け 黒鳩色、ねずみ色系の花色は他の園芸花卉にあまりなく、朝顔独自の色分けである。黒鳩系無地花は希少品種で入手困難な状況にある。本種は美黒鳩無地陽光抜け筒白花の逸品として大切に受け継がれてきた。黒鳩系は草勢やや強いが、耐肥性弱く、たおやかな花弁を生むには早めに肥料を打ち切るのがポイントである。
紫泉 しせん キフセ 黒鳩縞 富永暢夫氏の作出。紫紺無地花からの変化種だが、黒鳩色と縞柄は安定している。この種も比較的葉に斑の出が少なく、草勢はやや強性。耐肥性は弱性、葉は肥大する傾向がある。栽培全期を通じて薄めの肥料で仕立てると良い。東京、関西で栽培されている。
雲仙の薪 うんぜんのまき キフセ 黒鳩縞 昭和30年代に京都で作出された名花。縞柄の優秀品種、現在も主要銘柄として各地で栽培されている。黒鳩縞柄品種は種子つきが安定しているため種類が多いが、色地と白地の割合は紺色花と同様に色地部分が7割の柄割が良いとされる。黒鳩縞柄品種は草勢やや強性。耐肥性は弱性、早めに肥料の打ち切りを心がける。
古今の月 ここんのつき キフセ 黒鳩縞 平成12(2000)年、東京・日比谷の展示会において芦澤恒夫氏がキセの黒鳩縞花を発見、湊明久氏に採種を依頼し、翌年命名した。その年に入賞した優勝花であるがキセとキフセ(共に黒鳩縞)に分離する。キセ(黒色種子)の方に地色が濃く出る傾向があるので、キセを選別する。草勢はやや強性。耐肥性は弱性、早めに肥料の打ち切りを心がける。同名の古名花に京都の広瀬修一氏作出花があった。
柴の折戸 しばのおりと キフセ 黒鳩縞 花弁はやや薄い。くっきりと縞が出たときの評価は高く、根強い人気がある。葉は小形ながら草勢は強いので、つるが上に伸びやすく横に広がりにくく、草姿は整えにくい。早めに肥料の打ち切りを心がける。蕾つき、種子つきは良い。花径は16㎝。
月夜野 つきよの キフセ 黒鳩縞 京都では「たそがれ」という。色や縞柄の出が良い。比較的葉に斑の出が少なく、草勢はやや強性。耐肥性は弱性、葉は肥大する傾向があるので水やりをひかえる。スマタ(「朝霧」参照)となり、蕾つきもやや悪く、結実もやや悪い。古くから各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
弁慶 べんけい キフセ 黒唐桑無地 「響」(黒鳩無地)の変化したものから東京の雨間秀治氏が平成14(2002)年に選出。黒唐桑は桑の実が完熟したときの色で、この品種は極黒鳩色と暗紫系に分離し、いずれも筒抜けに難があるが、珍しい花色に根強い人気がある。草勢は強性、仕立ては節間が伸びやすく、水やりをひかえめにする。開花期遅れ気味。
鹿苑 ろくえん キフセ 茶吹雪 名古屋の松岡秀政氏作出。「鹿道」と同様に、この品種の栽培も非常に難しい。吹雪斑が入ると鮮明さが落ちるとして名古屋では嫌われる。現在、黒鳩色が次第にねずみ色化してくるので、同色系統同士の交配が考えられている。名古屋、関西で栽培されている。
鹿道 ろくどう キフセ 黒鳩縞 名古屋の日野広一氏作出。運良く黒鳩の縞が出ればもうけものくらいに思って作るほうが良い。なかなか良い縞は出にくく、葉形も今ひとつである。名古屋で栽培されている。嘉永7(1854)年に出た「朝顔三十六花撰」を見ると、ねずみ色系の花色としてねずみ、藍ねずみ、鶴羽ねずみ、藤ねずみ、黒鳩、藤鳩、スル墨鳩、紺ルリ鳩、鳩、鳩羽などがあり、江戸の人達の鋭い色彩感覚に驚くばかりだ。現在では、これらの色の代表という意味で黒鳩色と呼んでいる。
鳴神 なるかみ キフセ 黒鳩縞 現在、名古屋朝顔会で逸品といわれる最優良品種だが、黒鳩色がねずみ色化し始めてきたので良花は得難くなってきた。種子も採れにくい品種である。純粋の黒鳩色の希少価値が高くなってきた。各地で栽培されている。名古屋朝顔会選定の優良花。
吹掛絞
柴垣桃園 しばがきとうえん アフセ 桃色吹掛絞 大阪の林吾良氏が作出。林氏の作出品種には住所の松原市柴垣にちなんで柴垣を冠している。昭和の「万博藤霞絞」と共に平成の「柴垣桃園」は吹掛絞りの偉大なる双璧である。花径は24㎝超、吹掛絞りの巨大輪花は花径の衰えが遅く、10年以上経つ今も花径の衰えは感じない。草勢は弱性種。短幹性なので芯止まり(「淀の湖月」参照)に注意する。結実は著しく悪い。各地で栽培されている。
大子3号 だいご3ごう アフセ 紅色覆輪吹掛絞 茨城の外池智一氏が作出。品種名は住所の茨城県大子町大子に基づく。吹掛絞りは白地に斑点が入ったものである。平成生まれの比較的新しい花で、紅色覆輪吹掛絞りの珍しい色柄は真夏の夜に開く華麗な花火のようだ。胚軸(「明咲10号」参照)に吹掛けの模様のあるものは吹掛絞りの花が咲く。紅色覆輪吹掛絞りは白軸を選択する。草勢は超弱性種、短幹性なので芯止まり(「淀の湖月」参照)に注意し、栽培全期を通じて薄めの肥料で仕立てると良い。花径は20㎝以下で、結実は極端に悪い。
万博藤霞絞 ばんぱくふじかすみしぼり アフセ 藤吹掛絞 中橋常次郎氏が昭和45(1970)年に作出した「万博の霞」シリーズの一つ。このシリーズには無地の「万博藤霞」、「万博紫霞」、「万博桃霞」の3品種と吹掛絞の「万博桜霞絞」、「万博桃霞絞」、「万博藤霞絞」、「万博紫霞絞」の4品種がある。中橋氏は昭和49(1974)年に「万博藤霞絞」を26㎝に咲かせ、一躍有名になった。この生花の記録は未だ破られていない。現在はさすがに21㎝程度となったが、種子つきはますます良くなった。草勢はやや弱性種、芯止まり(「淀の湖月」を参照)の心配はあまりない。各地の朝顔会で広く栽培されており、交配親としても盛んに使われてきた。
輝55 かがやき55 キフセ 濃紫吹掛絞 斑点の密度が全般に高いが、曜の部分では低くなっている。草勢は弱性で、節間もつまり、姿良くできる。蕾つきが良すぎるので柔らかに作る。種子つきは極めて悪い。
吾妻絞 あずましぼり キフセ 紅吹掛絞 日輪抜け 田口秀丸氏が昭和42(1968)年に作出。超矮性で草勢は弱性種だが、花は18㎝ほどに咲く。短幹性で水やりをひかえ過ぎるとかえって成長を阻害して、草姿も花も小さくなってしまう。大きく咲かせるにはある程度の葉の大きさが必要である。緩やかに仕立てるのが良い。開花期は他花より4~5日早い。蕾つきは非常に良いが、結実が悪く、種子は採れにくい。各地で盛んに栽培されている。
初霜 はつしも キフセ 浅葱吹掛絞 東京の田口秀丸氏が「岩清水」と「千代の里」を交配して作出した。浅葱の微細斑点が美しく、涼しげな色柄は数ある切込み用品種の中でも一、二を争う人気である。草勢は中性、短幹性で蕾つきも良く作りやすい。花径は18㎝ぐらいまで。耐肥性は弱いので肥料は早めに打ち切る。結実は非常に悪い。開花期は早め。京都では斑点が多く濃い総吹掛絞りのものを「せせらぎ」と呼んでいる。数咲き作りに最適である。各地で盛んに栽培されている。
紫時雨 むらさきしぐれ キフセ 紫吹掛絞 東京の樋口進亮氏作出。紫の吹掛斑点の密度が非常に高い。紫のほかに赤紫の系統がある。枝が弱いので数咲き作りは難しい。吹掛絞りは、文化・文政年間(1804~30年)に出現したといわれる。
藤娘 ふじむすめ キフセ 紫吹掛絞 田口秀丸氏が昭和31(1956)年に「朧月」(紫無地)と「千代の里」(桃吹掛絞り)交配選抜し、昭和45(1970)年に作出した。作出当初は藤吹掛絞りであった。現在、紫と紺色の2種類の吹掛絞りの花が出ており、いずれも花径は16㎝ぐらいまでである。草勢は弱性、短幹性で草姿は整えやすいが蕾つきは悪く、耐肥性は極めて弱い。開花期は2、3日遅く、肥料が残るとまともに開花しない。種子つきは吹掛絞りとしては良い。同名で市川二郎氏選出のアフセ藤色無地花がある。
刷毛目
杜の秋月 もりのしゅうげつ キフセ 茶刷気目 陽光抜け 中村長次郎氏が昭和44(1969)年に始めて大輪の刷毛目を作出し、その後も育種を続けて美麗な刷毛目品種を発表してきた。東京あさがお会の北井義秀氏が保存していた中村氏作出の茶刷毛目を会で栽培し、「杜の秋月」と命名した。草勢は中性で作りやすい。花芽がつきやすく、子づる仕立てに向く。花の色が、濃茶の刷毛目と薄い茶の刷毛目が同じ鉢で咲くが、色の良い濃い刷毛目は出にくい。現在はある程度固定しているようで、無地や他の色に変わることは少ない。種子はできにくい。
未固定の刷毛目 みこていのはけめ キフセ 栗皮茶刷毛目覆輪 静岡の山中達生氏が刷毛目と「団十郎」とを交配して選抜育種中のもの。この刷毛目模様は非常に不安定で、花ごとの変動が激しい。

 

参考文献

中村長次郎(1977) 名花作出の歴史と展望、原色朝顔作り方と鑑賞(渡辺好孝編)、農業図書

米田芳秋(2006)色分け図鑑 朝顔、学研

 

 

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