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園芸植物としてのアサガオ

アサガオ(Japanese morning glory)は日本人には非常になじみ深い植物であるが、諸外国では日本ほど知られていない。欧米でアサガオと言うと、Common morning gloryと呼ばれているマルバアサガオやソライロアサガオの方が一般的である。その他、イポメア属の植物には観賞や食用目的で利用されている植物は数えるほどしかないが、サツマイモ(Ipomoea batatas) という重要な作物が含まれている。

明治後期から始まるアサガオの第三次ブームでは、種子のできる、稔性のある変異を性(渦性など)、種子を結ばない不稔の変異を筋(柳筋など)とよび分類していた。また、個別の変異だけではなく、品種(系統)でも稔性のあるものを正木(まさき)、不稔のものを出物(でもの)と呼び分けていた。例えば、立田は性で正木、柳は筋で出物であるが、いずれも同じ立田(MAPLE)遺伝子のアレルである。しかし、種子でしか維持できない、 一年草であるアサガオでは稔性があるか無いかは非常に重要な情報だったのであろう。

観賞用アサガオ(Ipomoea nil)の分類

大分類 中分類 小分類 説明
大輪朝顔
(大輪咲)
青斑入蝉葉
(アフセ)
 

斑入(v1)、洲浜(re)、蜻蛉葉(dg)が複合した青斑入蝉葉を基本変異に持ち、 主に花の大きさを競う品種群。遺伝的にも大輪に咲く変異を複数保持しているが、肥培の技術も確立しており、行灯作り、らせん作りなどに仕立てられる。

  黄斑入蝉葉
(キフセ)
 

青斑入蝉葉に加えて黄葉(y)変異を持ち、花の色や模様の美しさを競う品種群。切り込み(盆養)作り、数咲き作りなどに仕立てて観賞される。

  黄蝉葉
(キセ)
  黄斑入蝉葉と同様であるが、斑入葉ではなく、品種数は少ない。
  恵比寿葉  

青斑入蝉葉に芋葉(Gb)変異が加わった、尾崎哲之助氏が育成した品種群。現在では、市販の大輪品種の一部にしか見られない。

変化朝顔
正木
(まさき)
 

花や葉の形を楽しむアサガオのうち、種子を結ぶ品種(系統)群。選抜が必要ないため、栽培は容易であるが、変化の程度が低く、シンプルな形のものが多い。 桔梗渦(s)、木立(dw)、姫については市販されている。

  出物
(でもの)
獅子咲牡丹
(花の部)

花や葉の形を楽しむアサガオのうち、種子を結ばない不稔の品種(系統)群を出物と呼ぶ。獅子変異(fe)と牡丹(強い八重咲き;dp)を基本とした系統群。花弁が太い風鈴獅子と、細い管弁獅子に分けられる。牡丹出物の出現率は1/16。獅子を持つ親木は抱えが強く鑑別できるため、他の出物よりも系統維持は容易である。ただし、花弁の形を管弁にする変異を併せ持つため、育種は他の系統群より難しい。

    獅子咲
(獅子の部)

獅子を基本とした系統群で、風鈴が大きく整った系統群。現在ではこのジャンルの系統はほとんど維持されていない。 出物の出現率は1/4。

   

車咲牡丹

(月の部)

縮緬葉台咲(cp)、立田(m)と牡丹(dp)を基本とした系統群。中央の花筒が折り返し噴き上げたしべが花弁化している。牡丹出物の出現率は縮緬親木から採種する場合、1/16、並葉親の場合1/64となる。立田を持たないもの(台咲牡丹)、立田の代わりに笹(dl)を使った系統もある。

   

采咲牡丹

(雪の部)

柳(m-w)と牡丹(dp)を基本とした花弁や葉が細くなる系統群。この2つの変異を持つものは、柳葉撫子采咲牡丹(やなぎばなでしこさいざきぼたん)と呼ばれているが、もっとも主要なものは、笹(dl)を組み合わせて糸のような葉になった、糸柳葉采咲牡丹である。牡丹出物の出現率は1/64で、稔性の高い笹親を使った出現率は1/16のものもある。他に南天(ac)を入れた針葉采咲牡丹もあるが、ほとんど栽培されていない。

   

その他

(鳥の部)

植物体が著しく矮化する「渦小人」、花弁が全てガクから構成されている萼咲牡丹(無弁花牡丹)など他のジャンルには入らないものや、獅子と柳、獅子と縮緬等、ジャンルを超えた組み合わせの系統群。

肥後朝顔    

熊本で育成され、明治時代から維持されている洲浜(re)変異を基本とする品種群。すべて青斑入洲浜葉(千鳥葉)で、中輪サイズの花は筒白。大輪朝顔の持つ洲浜変異と由来は同一だと考えられる。小鉢本蔓一本作りまたは盆養行儀作りと呼ばれる特殊な仕立て方で観賞される。

その他の観賞用アサガオ 曜白(ようじろ)  

静岡大学の米田芳秋がアサガオとマルバアサガオをアフリカ系統を仲介させることで交配して育成した品種群。アサガオの覆輪(a3-Mr)変異にマルバアサガオの遺伝的背景が導入されたことにより、曜(花弁の維管束部分)が脱色している。

  垣根用  

垣根用や教育用に育成されている品種群で、蜻蛉葉(dg)と様々な花色変異を持つ。

 

園芸的に利用されているアサガオの近縁種およびイポメア(Ipomoea)属の植物種

和名 学名 説明
マルバアサガオ Ipomoea purpurea

欧米で園芸植物化され、アサガオ類ではアサガオに次いで品種(変異)の種類が多い。起源地と育成地が近いため、単独起源ではないと考えられ、温帯地域に適応していない晩咲きの品種がある。アサガオと比べると花や葉がやや小型で、種子も小型で、花も房咲きになり結実すると下に向く。また、花のしおれる時間は早い。和名のとおり、葉は翼片のない心臓形をしている。 低温期でも生育を続けるため、日本では長野県や北海道でよく栽培されている。耐日本へは江戸期に長崎に導入され、かぼちゃ朝顔、八つ房と呼ばれていた。

ノアサガオ I. indica

アサガオに近縁の植物であるが、多年生(宿根性)である。日本では、南西諸島から、九州、四国、紀伊半島の太平洋岸に分布する。園芸的に利用されている系統は主に外国産のノアサガオで、先にヨーロッパでI. acuminata等称して利用されていた。近年、病虫害に強いこともあり、温暖な地方ではグリーンカーテンの材料として使われることが多くなった。淡色の品種がある。自家不和合性のため、別系統のノアサガオの花粉によって結実する。支柱によじ登る通常のシュートと、重力屈性を欠き、発根部がある匍匐シュートを生じ、後者によって生育域を拡大する。温暖な地方では駆除困難な有害植物となるため、植える場所に注意が必要である。

ソライロアサガオ I. tricolor

アサガオよりサツマイモやヨルガオに近い植物で、大型で夕方までしおれない花を房状に付ける。茎には毛(トライコーム)がなく、トゲ状の突起が発達する。晩咲きの品種が多く、低温に耐えるため霜が降るまで咲き続ける。野生型の透明感のある青色のヘブンリーブルーの他に白、絞り、車絞り、濁った紅色の品種が知られている。

ヨルガオ類 I. alba

アサガオよりサツマイモに近い植物で、白色の大型、夜咲きの花をつけ、花には芳香がある。種子も乳白色の大型である。近縁種のハリアサガオ(I. muricata)は中央部が紫色で外に向かって薄くなる花をつける。茎には毛(トライコーム)がなく、トゲ状の突起が発達する。夕顔ともよばれているが、ユウガオはヒョウタンに近いウリ科の植物で、干瓢の原料である。

ルコウソウ類

I. quamoclit

極小輪の朱紅色の星形花をつけ、葉は羽毛状である。近縁種のマルバルコウソウ(I. coccinia)は帰化植物化しており、この種との種間雑種はハゴロモルコウソウとよばれ市販されている。

 

コラム:吉田秋艸園の達観

第三次ブームの先駆けを為し、変化朝顔(浪速蕣英会では、奇生花とよんでいた)だけでなく大輪朝顔の発展にも多大な貢献をした、吉田宗兵衛氏(秋艸園)は次のような歌を詠んでいます。
「面白の千筋に分けて流れけりもとは一つの谷川の水」
(浪華蕣英会雑誌5号 明治44年、1911年)

吉田翁がアサガオを栽培を始めた当初は、江戸期から残存していた系統はそれほど多くはなかったと思いますが、これらを集め、愛好会を盛り上げていくうちに、数え切れないほど多様なアサガオの品種が増える様を目の当たりにしたのだと思います。栽培を通して、たった1種類の(青い)アサガオがこんなに変化を遂げたのだということを実感し、感嘆した思いを詠んだのでしょう。欧米で育種された多くの園芸植物は、複数の原種を用いており、種間雑種によるバリエーションも増やしていますが、たった1種類の原種からここまで多様性に富んだ品種(変異)がある園芸植物は世界的にもアサガオくらいです。
  なお、吉田秋艸園の現在でも残る功績で大輪品種の育成以外では、鍬形千鳥葉を「蝉葉」と命名、行灯仕立ての考案なども挙げることができます。

 

 

 

 

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