アサガオ百科 野生・地方系統 

アサガオ Ipomoea nilの起源と伝播

Copyright 1998-2022  米田 芳秋

 Austin and Huaman 1) によればイポメア属は主として次の3亜属,すなわちEriospermum 亜属,イポメア亜属,ルコウソウ亜属に分けられる。イポメア亜属には2節,すなわちイポメア節とアサガオ節がある。アサガオ節は3列,すなわちアサガオ列, Heterophyllae列およびTyrianthinae列に分けられる。 アサガオ I. nil,アメリカアサガオ I. hederacea,ノアサガオ I. indica などはHeterophyllae列に属する。

 アサガオが属するアサガオ節 Heterophyllae 列の6種の分布は,汎熱帯分布であるアサガオ I. nilとノアサガオ I. indica の例外的に広い分布を除いてはアメリカ大陸に限定されている3)。またアサガオ節に属する他の多くの種もアメリカ大陸に分布している。このことよりアサガオの起源もまたアメリカ大陸であると考えることが可能である。

 日本のアサガオは奈良時代に中国から導入されたものである。中国系天壇ネパールなどアジア系の系統との関連で,日本のアサガオはネパールを含めた東南アジアのどこかで起源したのではないかと推定できる9,10)。しかしアサガオは世界の熱帯から温帯地域にかけて広く採集されている。

Yoneda 11)はアフリカ系統とアジア系統の陰極側ペルオキシダーゼ・アイソザイムの移動度に違いがあることを認めた。このアフリカ系統はブラジル系統と極めてよく似ている。アジア系は新世界系とどのような関係をもっているのだろうか。

 Verdcourt 6,7) によれば,アフリカ大陸のアサガオは栽培品が逸出したか帰化したかものであろうと推定している。そうであるならば,アサガオの起源はアジア大陸かアメリカ大陸のどちらかになる。Fang & Staples 4)は中国におけるヒルガオ科植物を研究し,アサガオは中国では栽培されてきたものが逸出して帰化したものであると推定しており,原産地はアメリカ大陸ではないかと推定している。

 著者は世界のアサガオ Ipomoea nilの野生・地方13系統「アジア(5系統),オーストラリア(1系統),南アメリカ(5系統),中央アメリカ(1系統),アフリカ(1系統)」について各種形質を予備的に調査比較した(米田,未発表)。これらの13系統の中で,南アメリカのコロンビア4系統,ブラジル,アフリカ系統では花梗当たりの花数が多いが,これは原始的な性質を残すものと考えられる。葉形に関してはコロンビアの3系統とオーストラリアの主裂片中間型から,TKS(東京古型標準型),ネパール,フィリッピン系統の主裂片細型と,ブラジル,アフリカ,メキシコイラン系統の主裂片幅広型が分化していったと考えられる。子葉が胚軸につながる子葉柄から胚軸上部にかけて表皮毛がみられる。コロンビアの2系統の子葉柄はかなり多毛で,逆にTKS,アフリカ,ブラジル,メキシコ系統は非常に少ないかほとんど無い。これらの点を考慮に入れるとコロンビアの2系統はアサガオの起源に関して興味深い系統ではないかと著者は考えている。

 もしアサガオ I. nil が熱帯アメリカ大陸起源であるならば,どのようにして広い大洋を越えて汎熱帯的に分布を拡大していったのだろうか3)。アサガオ種子が鳥類や海流に乗って大洋を越えたという証拠は無い。人間が伝播に影響を与えた可能性がある。アサガオ種子は長年生薬として使われてきたので,その伝播が人間の移住に沿って起こる可能性がある2)。しかし,アサガオのアジア系統は古くから栽培されているので,コロンブスの新大陸発見後にアメリカ大陸からの伝播が始まったとは考えられない。もし,サツマイモ Ipomoea batatas が人間によって有史以前に南アメリカ大陸から大平洋の島にクマラルート kumara routeによって伝播したとするYenの仮説8)に何らかの証拠があがればアサガオ種子もまた古代人の移住の流れに沿って伝播したと推定することが可能である。アサガオの原産地がアジアであれ,アメリカであれ,広い海を越えてアサガオが伝播するしくみを調べることが必要である3)

参考文献
  1. Austin, D. F. and Huaman, Z. (1996) A synopsis of Ipomoea (Convolvulaceae) in the Americas. Taxon 45: 3-38.
  2. Austin, D. F. (2000). The search for"kaladana" (Ipomoea, convolvulaceae). Economic Botany 54: 114-118.
  3. Austin, D. F., Kitajima, K., Yoneda, Y. and Qian, L. (2001) A putative American plant, Ipomoea nil (Convolvulaceae) in pre-Columbian Japanese art. Economic Botany 55: 515-527.
  4. Fang, R.-ch. and Staples, G. W. (1995) Convolvulaceae pp.271-325, In: Editorial Comittee (ed.) Flora of China. Vol.16. Missouri Botanical Garden, St. Louis, MO.
  5. Ooststroom, S. J. V. (1940) The Convolvulaceae of Malaysia. 3. The genus Ipomoea. Blumea 3: 481-582.
  6. Verdcourt, B. (1957) The names of the morning glories cultivated and naturalized in East Africa. Taxon 6:231-233.
  7. Verdcourt, B. (1963) Convolvulaceae, pp. 1-161, In: Hubbard, C. E. and Milne-Redhead, E. (eds.) Flora of Tropical East Africa. Crown Agents for Overseas Governments and Administrations, London.
  8. Yen, D. E. (1974) The sweet potato and oceania. Bishop Museum Press, Honolulu, Hawaii.
  9. 米田芳秋 (1995) アサガオ 江戸の贈りもの 夢から科学へ 裳華房.
  10. 米田芳秋, 竹中要 (1981) 原色朝顔検索図鑑 北隆館.
  11. Yoneda, Y. (1970) Peroxidase isozymes in four strains of morning glory. Japan. J. Genetics 45:183-188.

Edited by Yuuji Tsukii (Lab. Biology, Science Research Center, Hosei University)