アサガオの生理学
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アサガオ花成生理学実験法
アサガオへの接木によるサツマイモの花成

 九州南部・沖縄以南ではサツマイモ(Ipomoea batatas)は普通に花を咲かせるが、本州以北でサツマイモの花を見ることは珍しい。サツマイモは短日植物であるが、鈍感な短日植物で、花成を誘導されるには長期間短日条件下に置かれる必要がある。そのため、本州以北では、秋も深まった頃に十分な短日処理を受けることになるが、その頃には気温が低下するため、花芽は分化しても開花するには至らない。従って、開花を見るのは稀なのである。
 サツマイモ属(Ipomoea)とアサガオ属(Pharbitis)は極めて近縁で、最近は、これら2属を分けずに、サツマイモ属に統一する意見が強い。互いに近縁種であるため、サツマイモとアサガオは容易に接木することができる。サツマイモをアサガオに接木して暗処理すると、サツマイモは容易に花を咲かせる。このことは、短日処理を受けたアサガオの葉で花成を誘導する物質が作られ、これが接木を介してサツマイモに輸送されて、サツマイモの花成を誘導することを示唆する。このことは、さらに、サツマイモが鈍感な短日植物であるのは、花成誘導物質に対する感受性が低いためではなく、花成誘導物質の生産量が少ないためであることを示唆している。
 サツマイモをアサガオに接木する方法を以下に紹介する。

1.サツマイモ接穂の用意

 アサガオに接木するサツマイモの接穂としては、種子から育てた芽生えを使ってもよいし、塊茎(芋)から不定芽を出させて使ってもよい。もともとサツマイモは花を咲かせにくいので種子の入手は容易ではないが、観賞用サツマイモとして種子を市販している種苗会社もある。花を咲かせたとしても、サツマイモは自家不和合性が強いために他家受精でできた種子がほとんどのため、種子から育てた芽生えの遺伝的背景は均一ではない。塊茎から出させた不定芽の遺伝的背景は均一であるから、生理学的実験には適している。ただし、不定芽の成長は不揃いで、茎は種子からの芽生えより太い傾向にあるので、アサガオに対する接木はやりにくい。

播種
 アサガオ種子の発芽誘導処理(アサガオの育て方と花成誘導の方法−播種)と同様にして、サツマイモ種子を濃硫酸処理し、吸水させ、ペトリ皿の濾紙上で発芽させる。
 発芽種子を寒天培地に播種し、長日条件の培養室で2週間育てる。
不定芽の誘導
 塊茎の上部の長さ5cmほどの部分を切り出し、ビーカに立て、下部1cmほどが浸るように水道水を入れる。25℃、長日条件で水耕して、不定芽を発生させ、シュートを形成させる。
2.接木

 長日条件下で2週間育てたアサガオ芽生えを用意し(アサガオの育て方と花成誘導の方法−寒天培地への播種)、台木とする。 外径4mm、内径2mmのシリコンゴムチューブを長さ10 mmに切り、縦に切り開いたものを用意し、接木チューブとする。
 台木とするアサガオ芽生えを培養管に移植する(「アサガオの育て方と花成誘導の方法」−「水耕」)。アサガオ下胚軸に接木チューブをはめる。かみそりの刃を使って幼芽を切除した後、下胚軸を縦に、子葉葉柄基部から約10 mm切り開く。
 サツマイモ接穂として芽生えを使う場合は、芽生えをペーパータオルの上にねかせ、かみそりの刃を使って、子葉葉柄基部から約20 mmのところで下胚軸を切断する。下胚軸下部をくさび形に切り整える。
 サツマイモ接穂として塊茎から発生したシュートを使う場合は、シュートを基部から切り取る。シュートをペーパータオルの上にねかせ、かみそりの刃を使って、基部から約20 mmのところで茎をくさび形に切り整える。
 接穂サツマイモのくさび部分を台木アサガオ下胚軸の切れ目に挿入する。アサガオ下胚軸にはめてあった接木チューブを接木部分に移動して、接穂を固定する。
 接木植物を入れた培養管をビーカに立て、さらにビニル袋に入れて、ビニル袋上部を折りたたんで、クリップで封じる。25℃、長日条件下で1週間育てる。

3.馴化

 接木後4日目に、ビニル袋のクリップをはずし、上部を開いて外気を入れて、馴化する。
 1日後、ビニル袋上部を全開する。
 さらに1日後、ビニル袋から植物を取り出す。台木子葉の葉腋からシュートが発生しているときは、ピンセットを使って取り除く。
 培養期間中培養液が減少するので、培養液を補充する。

4.暗処理

 接木したサツマイモ/アサガオを暗処理用インキュベータ(25℃、8時間明期−16時間暗期)へ移動し、4日間暗処理を行う。
 暗処理インキュベータから長日培養室へ移動し、3週間育てる。培養期間中培養液が減少するので、培養液を補充する。

5.観察

 アサガオの場合と同様にして(「花芽の判定と花成反応の評価」)、サツマイモ芽生えの花成反応を調べる。 アサガオは1つの葉腋に1個の花芽を作るのが普通だが、サツマイモは1つの葉腋に数個の花芽からなる1個の花序を作る。花芽の構造は両者でよく似ている。


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