アサガオの生理学
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花成生理学序論
バーナリゼーション
バーナリゼーションとジベレリン

 ニンジンにジベレリンを与えると低温を受けなくても花をつける。このような、ジベレリンが低温処理の代替になる例が多数知られている。しかし、シロイヌナズナの早期開花エコタイプLerは低温非感受性だがジベレリンで花成が早まり、カウレン合成酵素の機能欠損変異体ga1-3、ジベレリン非感受性変異体gaiも低温に反応することから、バーナリゼーションにジベレリンが関与しているわけではない。

バーナリゼーションの分子遺伝学

 低温要求性に関わる遺伝子としてFLOWERING LOCUS C(FLC)が中心的な役割を担っている。FLC遺伝子はMADSドメインを持つ転写因子である。早期開花エコタイプのLerはバーナリゼーションを受けないが、このときFLCは発現しない。花成遅延変異体fca-1はバーナリゼーションを受け、FLCの発現が減少する。つまり、FLCは花成を抑制する機能を持ち、FLCの発現は低温で抑制され、FCA遺伝子に抑制されている。
 flc-13変異体は低温非感受性だが長日条件で花成が早まる。flc-13ではFLCは発現しない。それにもかかわらず長日条件で花成が早まるのだから、FLCは光周的花成には関与していない。
 低温感受性の花成遅延変異体ではFLCの発現量が多く、これは低温処理で減少し、低温処理後は検出レベル以下の状態が維持される。FLCを強制発現させると、低温処理しても花成は早まらない。fri突然変異体ではFLCは発現しない。FLCの発現は光周期で影響を受けない。光周期変異体はFLCレベルを変えない。

バーナリゼーションとDNAメチル化

 バーナリゼーションでは、種子または芽生えのとき受けた低温処理の効果が植物体が成熟した後に発現する。これは、種子または芽生えのとき確立された情報が、繰り返し行われる細胞分裂を通して安定に伝えられることを意味する。実際、低温処理後、FLC遺伝子の発現は抑制されたままである。FLCの発現は花茎でも減少するから、低温の効果は花成に移行した後も安定に維持されている。ただし、次世代は低温を受けなければFLCは発現する。このような細胞分裂を経過して伝達されうる安定した変化にはDNAメチル化が関与していると考えられる。
 低温感受性の花成遅延変異体fca、fyを脱メチル化剤である5-アザシチジンで処理すると、花成が促進された。ゲノムDNAを制限酵素MspTとHpaUで分解することによって脱メチル化が確認されている。5-アザシチジン処理の効果は次世代ではキャンセルされる。低温感受性株をメチル転移酵素アンチセンス遺伝子で形質転換すると、花成が促進された。花成に低温を必要とするThlaspi arvense(アブラナ科)や冬コムギでも、5-アザシチジン処理は花成を促進した。これらのことから、花成に必要な遺伝子はDNAメチル化で発現を抑制されており、低温感受性DNAメチル転移酵素の活性の低下によるメチル化DNAの頻度の低下によって花成遺伝子の発現が誘導されると考えられる。


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