アサガオの栽培方法 

 アサガオは小学校の教材として栽培されているように、他の園芸植物と比較しても栽培は簡単な部類に入る。しかし最近では各種病虫害も報告されており、以前ほど簡単ではなくなってきているようである。また、大輪咲(洲浜)のように花のサイズを競う場合や変化アサガオの弱い系統を育てるにはある程度の細かな管理が必要である。変化アサガオの中でも出物系統は栽培技術よりも、出物や親木の鑑別が一番重要であり、系統ごとにどのようなアサガオを鑑賞用と採種用に使うかできるだけ早い時期に分けて(仕訳)いく必要がある。この習得には経験だけでも対応できるが、できれば遺伝学的な原理を理解しておくと、その考え方がどの系統にも応用でき便利である。


変化アサガオは栽培・維持の観点から大きく正木と出物の2つに分類される。前者は普通のアサガオと同様に栽培するだけでよいが、後者は株の鑑別の知識や多数の親木を栽培するための栽培環境が必要となる。

正木(まさき):もっている変異が均一(ホモ接合)になっているため、播いた種子のほとんどが同じ形、色になり、種子も稔る系統。九大の番号では、Q401~Q463、Q515, Q518, Q521、Q601~677、Q1089、1093 などの出物系統以外の全部)

出物(でもの):著しく形が変わっており、種子のできない株である、”出物”が一部分離してくる系統。残りは種子のできる親木(おやき;出物を隠し持っている)となる。九大の番号では、Q401~Q463、Q515, Q518, Q521、Q601~677、Q1089、1093 など。

変化アサガオ栽培の模式図

牡丹咲出物系統が分離する原理を示した模式図


栽培に必要な材料・環境

栽培場所
 アサガオは生育に強い光を要求するため南向きの日当たりのよい場所がよい。半日陰になるような場所でも成育するが徒長しやすい。鉢植えでは地面で直接育てるより棚や屋上のような場所に置いた方が徒長しにくい。地面に鉢を並べる場合は、根が直接地面に伸びないように、棚板や、ビニールシートなどを敷いた上に鉢を置く必要がある。アパートのベランダや屋上は虫媒の原因となるような昆虫が飛んで来にくいので栽培に適している。ただし、雨がかからないような場所ではハダニが発生しやすいので、根元だけでなく葉にも潅水することでハダニの発生を抑えることができる。

 地植え(畑に直接植える)は種子の収量が増えるため変化アサガオでは有利であり、当研究室では、採種用の親木は主に地植えにしている。直播きするのではなく、ポットなどで育苗して、ある程度大きくなった苗を植え付けることで、立ち枯れなどの連作障害や、初期の昆虫やダニによる被害をある程度防ぐことができる。

 温室があれば一年中花を咲かせることができ、特に出物系統では、ヘテロ形質がぬけていないかチェックするための”テスト播き”をする目的や、交配実験で世代数を稼ぐのに都合がよい。また、変化物や近縁種では開花まで非常に長くかかるものがあるがこのような系統は温室でないと開花させるのが難しい。設備は比較的簡単なもので良いが、冬期でも夜間は最低20℃を保て、日当たりの良いように作る必要がある。小型(6〜10畳以下)だと電熱加温が取り扱いも易しいが暖房費がかさむため、一般的には、灯油暖房機を使用するとよい。夜間、日照がない状態で温度が高いと徒長するので、できれば夜間は20℃程度に下げた方が良いが、恒温条件でもそれほど問題はない。30℃では播種後30日目ごろから花が咲き始める。冬は短日のためすぐに着蕾するし、早く花を見る必要があるテスト播きなどでは都合がよいが、多数採種する目的で、開花を抑制し大きく育てる場合は夜間の電照を行う(それほど明るくなくても可)。

用土
 アサガオは弱酸性の保水性のよい用土を好む。ただし園芸用に市販している培養土であればほとんど使用できる。また園芸家は腐葉土や畑土、川砂、バーミキュライト等を自分なりに混合したものを用いている方が多い。特に大輪咲で大きな花を咲かせるためには肥料の利き具合などの面からも培養土の選択は重要であるが、変化アサガオではそれほど重要ではない。鉢植えに使う土は病害予防のためにも毎年換える必要がある(古い土を使うと立ち枯れ病が出やすい)。

植木鉢
 変化アサガオでは育苗には3号(9cm)の赤レンガ色の駄温鉢、鑑賞用の本植えには5号(15cm)ないしは6号(18cm)の鉢を使う。駄温鉢でも良いがやや乾燥しやすい。鑑賞上劣るがプラスチック鉢の方が管理はしやすい。またアサガオ用として売られている堅焼の丹波鉢、常滑鉢や今戸鉢は最適であるが入手は難しい。安価で鉢の安定がよいため、5号の菊鉢も割合使いやすい。また大輪咲朝顔(洲浜系統)では育苗に4号(12cm)、本植えには7号(21cm)の植木鉢を使うのが普通であり、変化アサガオでも洲浜が入った系統や石化(帯化)系統など大きく育てるものは大きめの植木鉢を用いた方がよい。

私は大量に栽培するため、播種・育苗には連結ポットを主に用いている。また直径9cmの黒のビニルポットを育苗トレイにならべ使うこともある。通常の出物系統には1系統あたり1トレイ(24ポット)を使っている。およそ50粒、各ポットに2粒づつ播種し、出物、親木をおよそ半数づつ残し、牡丹探りをした後、それぞれ植木鉢と圃場に本植えしている。

支柱
 蔓性の植物であるアサガオの栽培には支柱が必要となる。鉢栽培では、通常、行灯(あんどん)と呼ばれる、3本の支柱を3つの金属の輪でとめたものがよく用いられる。また園芸店では金属支柱をプラスチックコートした耐久性の高い行灯支柱が市販されている。変化アサガオでは黄葉の獅子・糸柳系統など小型のものでは支柱の長さが45cm、青葉の獅子・柳・糸柳、黄葉の台咲や正木系統など比較的大きくなるものでは60cmのものが良い。また、尾崎哲之助氏考案のらせん支柱も良いが、ほとんど市販されていないので、自作する必要がある。
 しかし、これらの支柱はツルが自然に巻き付かないことが多いので適当に誘引する必要がある。持ち運びなど不便であるが、下記のポールを鉢に立てて、ロープ等に固定する方が管理が楽である。

 地植えや、鉢、プランター栽培では単純なポールが用いられるが、これもプラスチックコートした金属支柱が園芸店で市販されており、耐久性が高いため便利である。私は露地植えでは2mのものを用いている。これらをロープや長いポールに針金やビニールタイ、電気工事などで用いるナイロンタイなどで結束して使う。

 

栽培管理

水やり
 栽培に用いているポットの種類や天候によって水の蒸発する度合いが異なるので適宜調整する必要があるが、目安として播種して発芽まで1日2回、6月までは1日1回、7月から9月上旬までは1日2回(特に8月の晴天には3回)、その後は1日1回潅水している。鉢の底から水が流れ出てくるくらいたっぷりと潅水する。水切れして葉がしおれても元の状態まで戻ることが多いが、強い水切れを繰り返すと下葉が早く枯れ落ちてくる。
 アサガオは他の園芸植物と違って根腐れしにくいため水のやりすぎで失敗することは少ない。ただし、夜間に多くの水分が残っていると徒長しやすくなるため、あまり遅い時間には水やりしないようにする。

肥料
 うちでは畑の地植え用には有機肥料、鉢植えには専ら化成肥料を用いている。顆粒状の化成肥料は地植え以外では肥料あたりをおこすことがあり、一度試してから使用しないと危険である。
 当研究室では、元肥として、播種、本植えすべての培養土に最初からマグアンプK(中粒)を1リットルの培養土あたり、5g程度最初から加えているが、あまり大きく育てない場合は、追肥等一切しなくて良いという利点がある。ただし、後で鉢の上からマグアンプを追肥しても効果は少ない。他にグリーンボール(他の地方で相当する物もあると思う)という商品名の直径5mm程度粒状の化成肥料をもちいており、少しづつ肥料分が溶け出すため危険性が少なく、肥料の効きも目に見える。9cmポットでは数粒程度、プランターでは一握りを表面に播く。生育に応じて2週間から1カ月に1度加える。
 液肥としてハイポネックスなども有効であり説明書に準じて適宜希釈して、水やりの替わりに使用したらよい。

農薬
 他の植物と比較してアサガオは病害虫が比較的少ないが、栽培初期にハダニ、盛夏〜秋にエビガラスズメ(芋虫)やヨウトウムシの食害をうけやすい。ハダニには、各種殺ダニ剤、エビガラスズメは、終令幼虫くらいになると一晩でかなり食害されるが殺虫剤に比較的弱く一般的な殺虫剤がよく効きスミチオン、マラソン等を規定の濃度で散布する。またオルトランCを土の表面にまいておくと予防効果がある。

ヨトウムシは、葉だけでなく、開花前の蕾〜開花当日の花や結実したさく果をかじるので被害が大きく、通常の殺虫剤に耐性が強く根絶は難しい(高価であるが、最近ではアファーム乳剤を使用しているが、かなり有効であり、耐性も出ていない、またダニにも効いているようである)。ハダニはベランダ等雨水のかからない場所で栽培するとよく発生するが、水やりする際に葉水をまんべんなくかけるようにするとかなり防ぐことができる。また少雨の気候が続くとオンシツコナジラミがよく発生し被害は大きくないが、葉が汚くなりやや萎縮する。アドマイヤー、ベストガードやオルトランなどが比較的有効なようである。

 新芽がいじけた感じになり、葉が縮んで展開するようになる症状が最近全国的に観察されており、これはホコリダニによる成長点の吸害による(肉眼ではほとんど見つけることができないのでダニの害だと気づきにくい)。そのため、一般的な殺ダニ剤の多くが有効である。
 北部九州でよく観察される病気で、白さび病様の病害(アサガオ白サビ病)も観察される。特に成長の遅い出物がダメージを受けやすい。また縮緬はこの病気に非常に弱く、今後全国に広まっていくことを警戒している。
一般的な殺菌剤はほとんど効かないが、藻菌類に有効な薬剤は劇的に効く。ランマンフロアブル、リドミルMZが有効であるが、前者は耐性菌が出現しやすく効かないこともある。

当研究室の配合例(液体もすべて重量で計量している)
 殺ダニ剤(新芽の萎縮症状に)10g

 リドミルMZ(殺菌剤;白サビ病)10g
 アファーム乳剤(殺虫剤) (10g)
 展着剤(リノー等)3g  以上を水に溶かして10リットルにして散布。

短日処理
 牡丹物とよばれる牡丹変異(dp)をもっている出物では蕾がつかないと牡丹出物が判別できず、その後の本植えが遅れてしまう。そのため着蕾を早めるために短日処理をおこなうことがある(必ずしも必須ではないし、黄葉系統では必要ないことが多い)。方法は本葉が数枚の時、夕方(例えば午後5時)から翌日の午前中(午前9時)まで暗室にいれる。または目張りをしたダンポール箱を鉢にかぶせる。いずれの場合も
ほぼ完全に暗黒にする必要がある。ほとんどの系統は、通常1日の処理で花芽が誘導されるが、2,3回行った方が良い。花芽分化しにくい糸柳や針葉系統、熱帯起源の野生系統などでは数回〜10数回処理する必要がある。ただしあまり何度も処理すると、芽止まり(成長点の先が蕾になって成長を停止する)など起こしその後の成長が思わしくない。一般に短日処理して3週間程度で花が咲くようになるが、その前に蕾で牡丹かどうか鑑別することができる。
 一般的に小さい鉢で根の成長を制限して作った方がプランターや地植えより花芽がつくのが早い。系統によっても着蕾の時期はことなり、黄葉系統は青葉よりも花付きが早く短日処理の必要はあまりない(見かけも柔らかいのもあるが、この理由もあって変化アサガオで黄葉は好まれる)。斑入葉系統の花芽のつく時期は、黄葉と青葉の中間程度である。また木立はほぼ例外なく早咲きである。


実際の栽培

播種の適期

 アサガオは熱帯起源の植物なので低温期に播種すると発芽できず種子が腐ってしまう。発芽に最低必要な温度は20度程度だといわれている。そのため5月にはいってから播くのが安全である。一般に八十八夜頃(立春から数えて88日目、おおよそ5月2日)と言われているが、夜間の冷え込みなどが続くときは避けて、その年の天候と気温を睨んで安全な時に播いた方が良い。実際には、5月中旬以降に播いた方がよく、遅くとも6月中旬ごろまでに播種すれば、最終的には5月に播種したものとあまり変わらない程度に成長する。また、7・8月に播種してもそれほど大きくならないが秋までには採種できる程度には生育する。
 我々の研究室(九州・福岡)では例年、5月の半ばから6月初旬にかけて播種して栽培しており、開花・成長の遅い、細葉系統などは秋以降温室に移して開花させる場合もある。開花・成長の遅い出物系統は4月ごろに温室やフレームを利用して播くのも一つの方法である。

1) 芽切り
 アサガオの種子は種皮が硬く吸水しにくい。そのためそのまま種を播くと発芽時期が揃わず、特に変化アサガオでは出物(不稔の突然変異系統)を選別(仕訳という)する際にヘテロ形質がぬけた系統かはっきりしなくなり、後々手間がかかる。そのため芽切り(芽かき)といって、カッターや爪切り、はさみ等を用いて種皮の一部に、中の胚乳の白い部分がわずかに覗く程度傷を付ける操作を行う(下図)。傷をつける場所は浅く、確実につけるならどこでも良い。逆に胚の部分が深く傷がつくと発芽しなくなるので避けた方が無難である。また、木綿針、千枚通し等で、一部を刺すという方法も有効だが、発芽した子葉には穴が開くことが多い。

 芽きりした種子は、土中で十分吸水できるため、一般に言われている"水に一晩つけて播く"作業は手間がかかるだけで、全く無意味である。芽きりをせずに水につけただけでは、硬い種皮の種子は結局吸水しない。芽きりしてもあわてて播く必要はなく、余った種子は翌年以降播いても問題はない。

芽きりをした種子

また大量の種子を一度に処理をするためには濃硫酸に60分間浸けてよく水洗したのち播種する。系統によって処理時間は異なるので事前にテストした方がよいが、ほとんどの系統が60分程度で十分である。また小型の種子の場合は短い時間の方がよい。処理後、網にあげて、急いで水をかけて硫酸を洗い流す。濃硫酸に水を入れると急激に高温になり、危険であり、すぐに水を入れ替えて冷却しないと種子が死んでしまうので注意する。

2) 播種

播く場所:発芽後すぐに植え替えをする場合は、育苗箱やプランターに無肥料の用土(川砂やバーミキュライト、赤玉土)を入れて、系統番号を書いたラベルを挿して系統ごとに分けて列にして播く。

 発芽後植え替えしない場合は、植木鉢やプランターに最初から肥料分を含む培養土を入れて、これに直接播く。特に変化アサガオの出物系統の場合は播種する数が多く植え替えに手間がかかるので、この方法で問題はない。9cmビニルポットを育苗箱に並べて培養土で満たす(箱に並べる場合は底網は必要ない)。または、60cmプランターや5号鉢などに培養土を入れてこれに播く。ビニルポットには各2〜4粒づつ、プランターには25粒くらいまで播く数を抑えておくと発芽後移植する必要がないのであとで管理しやすい。

前述の24穴の連結ポットは、入手は難しいかもしれないが、比較的安価で、まとめて管理できるので便利である(インターネット通販等でも入手できる;うちでは東海化成のTOシステムポット 9cm[TO-24P]を使っている)。通常の出物系統には1系統あたり1トレイ(24ポット)使っている。これに培養土を満たし、およそ50粒、各ポットに2粒づつ播種する。発芽後、状態のよい、交雑していない出物、親木をおよそ半数(12ポットが出物、12ポットが親木で、それぞれ1〜2本づつ植わっている状態)づつ残し、牡丹探りをした後、それぞれ鑑賞用と採種用に本植えしている。もちろん、発芽後、葉出物、親木を最小限植え替えて固めておいた方がよいが。

大量に栽培、選抜する場合、畑に床を作って直接畑に播く方法もあるが、やはり上記のようにポットで育苗したほうが立ち枯れ病や蛾の幼虫による食害など初期の病害から苗を守ることができるので良い。またある程度育苗して畑に植えたほうが連作障害もおこりにくい。

播く深さ:種子を埋める深さは1から1.5cm程度で胚(へそ)の部分が斜め上になるように播くと発芽の際に皮がとれやすいが、数が多い場合は気にしなくてもよい。川砂やバーミキュライトなどに播種して、発芽後すぐに移植する場合は2−3cm間隔で密に播いても問題ない。
 渦小人、渦+出物など子葉軸の特に短い系統は深播きすると発芽に失敗することが多いので1cm程度の深さにとどめる。

播く粒数:正木系統(稔性のある系統)では1系統あたり数粒播けば十分なので、9cmビニルポットの場合、各2粒づつ芽切りした種子を播き、発芽後、交雑していない、丈夫な方を残す。松島や雀斑のような不安定な系統は10粒以上播いて復帰突然変異をおこしていない株を選抜する。
 出物系統(不稔形質に関してヘテロで維持している系統)の播種する数は一重咲の出物系統(獅子咲、柳葉采咲、渦小人等)、出物の出現率(変化アサガオでは出割と呼んでいる)が25%(1/4)の系統では1株由来の種子を10粒から20粒、出現率が6.25%(1/16)の系統では30粒から50粒程度を播種する。それ以上出現率が低い系統、例えば渦糸柳等では100粒等、必要に応じて播種する数を増やす。播種後、系統名(番号)をマジックインクや鉛筆で書いたプラスチック札を差し、たっぷり潅水し、以後毎日1、2回用土の表面が乾いてきたら潅水する。播種する時病害を予防するため、ベンレートをまぶして播種すると良い。私は手間を省くため、効果のほどはわからないが、播種、潅水後ベンレート1000倍液をたっぷり散布している。

3) 発芽

種皮の除去:5月に播くとおよそ5日から1週間、夏期や温室では2、3日で発芽してくる。”皮かぶり”と称して種皮が子葉を覆ったまま発芽してくるものがあり、特に細葉の采咲出物や燕の出物に多い。この場合放っておくと腐ってしまうので種皮を取り除く必要がある。通常は潅水後、種皮がふやけて柔らかくなったときに指でとりのぞく。それでも種皮が柔らかくならない場合は、ティッシュペーパーをかぶせて、霧吹きで濡らしておいて後でとりのぞく(白いティッシュが目印になって便利である)。また根が地表に出ている苗などは再度植え直してやる。

交雑株の間引き・植え替え:子葉が展開したら、子葉の色・形や子葉軸の色を観察し目的の形質をもっているか観察し、自然交雑をおこしている子葉は抜き捨てる(迷った場合は少ない方が交雑株である)。苗の植えかえは発芽後できるだけ早いほうが側根が少なくいたみが少ない。移植ヘラ(例えば、名札を縦に折ったもの)を使って、周りの培養土をできるだけ一緒につけて、側根を傷つけないように移植する。

出物の鑑別:無肥料の播き箱等に播いて移植する場合、出物系統から分離してくる、子葉で見分けられる出物(葉出物)は子葉の段階で、1本づつ3号の駄温鉢かビニルポットに移植する。のこりの親木の子葉は5号鉢やプランターなどに数本から10数本まとめて植えておく。
 培養土に直接播いた場合は親木は移植せずそのまま残しておく。連結ポットの場合はそのままにしておき、後で出物と親木を必要数残す。
 通常、獅子咲牡丹系統で、最終的に親木を5本以上、采咲牡丹、車咲牡丹系統で7〜10本残す必要があるため、この時点では出物系統ごとに10本以上親木を残しておいたほうがよい。

本来、子葉で鑑別できる葉出物が出る系統で(采咲、獅子、渦小人など)、出物がこの段階で出ていない場合は、同じ株由来の苗は全部廃棄する。この手間を省くためにテスト播きを事前にやっておくと良い(後述)。

以下写真をクリックすると咲いた花の画像を表示します(ただし写真は例なので、形が同じ別系統の画像とリンクしている場合があります)。
500番台の台咲牡丹系統(台咲親木)、車咲牡丹系統(車咲親木Q515など)の出物系統は種とり用の親木と牡丹咲の鑑賞用の出物の2種類しか分離しないため、子葉は全部同じ形をしている。


400番代の獅子咲系統の出物(右)は抱えて、全体にゆがんでおり、これが獅子の子葉である。左は親木(獅子の親木は抱えが強いので本葉が出てから再鑑別する;後述)。管弁(流星)獅子などはもっと著しく抱えており、笹獅子では子葉が上に向いて立ち上がっていることが多い。


600番台の柳出物(右)は子葉が細く渦を持つ系統では股を開いている。


600番台の笹親木の糸柳系統の、柳出物(右)は子葉が細く抱えている。


600番台の一部の渦(黄葉)糸柳牡丹系統(Q654, Q661, Q662など)は、並葉親なので、子葉は上記の4種類の子葉が分離してくる。本来は糸柳(一番右)だけ高級出物と呼ばれる鑑賞用の株だが、柳出物(右から2つ目)を保存しておいて鑑賞してもよい。左から2つ目の笹は種子の収量が少ないことが多いので、親木には使えない。そのため、一番左の並葉(実際には弱い渦が多い)を親木として保存しておく。笹や燕の入った獅子系統(Q419, Q456など)も同様に、並葉・笹・獅子・笹獅子、または 並葉、燕、獅子、燕獅子が分離くるが、並葉親木を採種用に保存する。ただし、獅子を持っている親木が本葉の抱えで鑑別できるので(後述)、このクラスの糸柳牡丹より維持は難しくない。


1089, 1093などの縮緬親木、車咲牡丹系統の車咲出物(右)は、立田の子葉の表現型を示し、やや細く平行になり、葉脈が目立つ(初心者には一番鑑別が難しいクラス)。

他にもいろいろな分離パターンを示す系統があるが、子葉のころからよく観察して、2種類に分離するものでは、正常な子葉が親木、形が変わったものが出物、4種類に分離するものでは、一番多い並葉のものが親木で、一番少ないものが出物である。

獅子咲牡丹系統の分離の様子(Q426)

唐草糸柳牡丹系統(Q613)

4) 本葉による二次鑑別

 本葉が展開して2枚〜数枚になった時に、2段階目の選抜を行う。子葉は正常だが本葉以降形質が発現する、縮緬、蜻蛉葉、鼻葉や複合した蝉葉などを持つ系統はこの段階で再度交雑していない株を残す。
 獅子は優性形質なので、獅子系統(400番台)の親木のうち、本葉の抱えの強いものは、獅子を確実に隠し持つ(ヘテロ)親木である。できるだけ抱えの強いもの(一般的に出物と出物抜け株との中間型になる)を選ぶ。また一部の系統(系統リストにfe/coなどと書いているもの)は、非常に親木の鑑別がやりやすい系統で、丸葉になったものは、獅子を持っていない(出物抜け株)ので廃棄する。その原理は次のページに書いている。

4) 摘芯

 通常葉(本葉)が5から7枚程度になったときに芽を摘む(摘心)と脇芽がのびてくる。特に親木とよばれる採種用の株はたくさん花を咲かせるために摘心することがあるが蔓が多いと支柱に巻き上げるのに手間がかかるためそのままでもかまわない。出物は成長も遅いものが多く、最初の芽を伸ばす方がよい。また采咲き系統等では摘芯しなくても勝手に分岐することが多い。

5) 牡丹咲株の鑑別(牡丹探り)

 他の出物が子葉の段階で判別できるのに対し、牡丹変異は蕾がつくまで判別できないやっかいな突然変異である。しかし花を豪華にする意味でも一番重要な変異であり、鑑賞価値の高い系統ではこの牡丹探りとよばれる選抜が欠かせない。
 牡丹変異を含む牡丹出物は、蕾がついてある程度の大きさになったら蕾を解剖して葯があるか確認する。蕾がすべて花弁と萼でつまっているのが目的の牡丹出物である。かなり小さな蕾でも実体顕微鏡下で解剖すると牡丹出物が判別できることが多い。特に葯が目立つので一重咲は判別しやすい。蕾を指でひねり潰すと一重咲きの蕾では葯がつぶれてパチパチという音がするが、牡丹咲きの蕾ではグリッとした感触がして音がしない。この牡丹の見分け方を”聴音法”というが、ある程度熟練が必要であるし100%確実な方法ではない。
 また糸柳や針葉など花弁の細い系統では、蕾がある程度大きくならないと鑑別を間違えることがあり注意する。八重咲を含む系統も牡丹と間違いやすいため、同様に蕾がある程度大きくなるまで待つ。
 出物、親木ともにおおよそ4分の1程度が牡丹になる。


6) 本植え

 正木物や子葉で見分けられる出物系統では蔓がのびてきて、最初に植えたポットに根がはって鉢の底からかなり出てきた状態で本植えをする。

 牡丹出物では牡丹探りをして目的の牡丹出物が分かった時点で本植えをする。糸柳や針葉系統は花付きが遅いため牡丹探りをする前に植物体が大きくなることがあり、この場合も、とりあえず牡丹探りの前に本植えする(そうならないように短日処理を繰り返して花を付けた方が効率が良い)。

 鉢植えでは15cm程度のポットにプラスチックの底網をいれ、その上に培養土を7分目までいれる。そして9cmポットから培養土ごと抜き取ったものを入れ、上から1〜2cmあけて培養土でポットを満たす。底に水はけをよくするために、ひとにぎりのボラ土、硬質鹿沼土等をいれ水はけをよくすることも良く行われるが私は面倒なので全部同じ培養土を入れている。

 また別の鉢やプランターに残しておいた親木(採種用株)は牡丹探りをして、牡丹咲きの株は種子ができないため抜き捨てる。また蔓がかなり伸びてきても蕾がつかない場合は牡丹探りはあきらめて、そのまま採種用に植え付ける。

植える親木の本数:
 単純な渦小人や柳葉采咲一重などの出物(出割:1/4)で任意に選んだ親木がその出物をヘテロで持っている確率は2/3であるが、采咲牡丹や車咲牡丹のように、牡丹が加わると、その確率が4/9(=2/3 x 2/3)に下がるため、親木をたくさん残す必要がある。また前述したように、獅子をヘテロで持つ親木はほぼ確実に判別できるため、獅子を持つ出物系統はより少ない親木で維持することができる。

 単純な、出現率が25%(1/4)の渦小人などの系統では5本程度(最低3本)残せば十分である。
 獅子咲牡丹系統では5〜7本(最低3本)の獅子を持っている親木(前述)を植える。
 出物の出現率が1/16の采咲牡丹系統や車咲牡丹系統は7〜10本(最低5本)残すようにする。
 出物の出現率が1/64の渦糸柳系統等では、10本以上の親木を植えるようにする。

新規に系統を導入した場合は、出物が抜けてしまったら終わりなので、上記よりも多い本数を植えて採種し、維持が確定した後の年度は少なめの本数で維持してもかまわない(抜けたら前の親木の種子に戻る)。また、芸が固定していない系統では、多めに親木を植えて、よい芸の出物を出す株の種子を残すようにする。

 これらの採種用の親木は5号鉢だと、1〜3本づつ、60cmプランターだと、一つに4,5本づつ定植できるが、蔓の誘引作業との兼ね合いも考えて決める。当然密に植えた方が、蔓が絡みやすいため細かな管理が必要になるし、採集できる種子の数が少なくなる。しかし通常の親木では、密に植えても個人規模では十分な量が採種できる。地植にする場合は最低でも30cm以上(できれば50cm以上)の間隔でよく耕して、肥料をすき込んだ畑に植える。

 植え付けた後たっぷりと潅水する。

7) 支柱立て

 通常は本植えと同時に支柱を立てる。鉢植えの場合は通常、あんどん(行灯)作りにする。金属・プラスチック製の支柱は市販されており使っている鉢のサイズに合う物を使えばよい。蔓は左卷き(右ネジと同じ巻き方)に、全ての部分を使うようにときどき誘導する。またらせん支柱を使ったらせん作りもにしてもよい。
 採種用の親木を植えた、プランターや鉢には1.8m程度のプラスチックコートした緑色の鉄製の支柱を使った方が蔓巻きする手間がかからない。また笹や竹材が手にはいればそれでもよい。地植えの場合は地面に差す分も考慮して2m程度の支柱を使う。これらの支柱を支えるため一定間隔で丈夫な柱を立てこの間をロープかワイヤーを張り、それぞれの支柱をこのロープに、ナイロン製の結束タイか、園芸用のビニルタイ(金属線入り)で風でずれないようにきつく縛る。丈夫な支柱を立てるのが難しい場合はこの支柱の間を長い竹やポールを渡す。蔓を左卷きに誘導し、ところどころビニルタイでしばると安定する。あんどんや支柱には耐水性のテープをはり系統番号と株番号を書いておく。

 渦や帯化等の系統はビニルタイがないと支柱に登らないため、ときどきビニルタイで縛りながら上に巻き上げる。枝垂も観賞上、枝垂れさせるのが面白いが、風で痛みやすいし、採種用には、ビニルタイで適当に支柱に巻き上げた方が管理が楽である。

 あんどんはそのままだときれいに巻き上がらないため、ときどき見回って、手で巻き上がるのを助けてやり、ところどころをほどけないようにビニールタイで結束する。親木では株ごとに採種する必要があるためときどき見回ってとなりの株と絶対絡まないようにする。蔓が一番上まで来たら、摘心して側芽を延ばすか、上に30〜50cm伸びたところで下に巻き戻す。

行灯(あんどん)作りにした車咲牡丹系統(1089)

圃場での栽培の様子1

圃場での栽培の様子2

8)鑑賞

 変化アサガオ、特に牡丹咲の系統は開花の際に花弁が重なりあってうまく咲かないことがある。その場合は楊枝などを用いて、丁寧に花弁をほぐしてやる(化粧という)。その系統の優劣を見極める上でも、花弁を取り除くことや、花弁を裂いて綺麗に見せる等はあまりやらないようにしたい。風鈴や鳥甲のような芸がうまく出て揃う花は稀である。

9) 採種

 朝顔では盛夏(7月下旬から8月下旬)に咲いた花は高温のため結実しにくく、早く咲かせた花か、秋以降の花がよく結実する。開花後1カ月半ほどで果実が茶色になり成熟し採種可能となる。アサガオは一定数以上結実すると全体が枯れてくるため、短日処理等で早く咲かせた場合、早く枯れてしまうことがある。

 アサガオは成熟後もしばらくは果実が裂けないためそれほど頻繁に採種する必要はないが、一株について少なくとも3回程度に分けて採種するとよい。完全に成長しきった種子は、青いまま収穫して自然風乾させて黒くなれば普通に発芽する(種子の保存性については不明だが)。近縁種のマルバアサガオやアメリカアサガオは頻繁に採種しないと種子がこぼれてしまうので注意。

 封筒に系統番号と株番号を書き、木箱か段ボール箱に株を植えている配列と同じようにならべてこれに株ごとにさく果のままいれていく。

10) テスト播き、種子の保存

 集めた種子は直射日光の当たらない涼しい場所においておき自然に乾燥する。その後さく果をつぶし種子を取り出す。できれば、出物系統は出物(不稔の突然変異形質)がぬけていないか、親木の株ごとの種子を播種し、子葉出物、牡丹出物が分離するかテストする(テスト播き)。これをおこなっておけば翌年栽培する際に、複数の親木の種子を播く必要がなくなり、かなり省力化できる。うちでは、おおよそ1つの親木あたり、9cmポットに4粒づつ、3鉢合計12粒播いてテストしている(95%以上の確率で親木の遺伝子型を判別できる粒数は10.4粒)。

 テスト播きは、9月中に播けば冬が来る前に少なくとも蕾まで観察することができる。鉢に密に植えている関係で、場合によっては株が大きくなりすぎないように、ビーナインなどの矮化剤を散布すると大きくならず便利である。または、採集した種子を翌年の8月下旬以降テスト播きを行い、同じ系統は1年おきに栽培するのも効率的である。本格的にテストするには温室で播種するとよく、冬季の短日条件だとあまり大きくならないうちに開花するので好都合である。30度の恒温・短日条件では30日程度で開花を始める。 

 種子は常温、開放した状態で保存すると最初の3−4年は大丈夫だが、その後発芽率が急に低下し、6−7年で多くが発芽しなくなる。アサガオは元来自家受粉する植物のため、有害な変異の多くは除かれており、近親交配には強いが、それでもトランスポゾンの転移などに起因すると考えられる近親交配による劣化(近交劣勢)が起こると考えられる。おそらく、種子稔性も低く花径など影響が出やすい大輪系統がもっとも近親交配の影響を受けやすく、親木が健全な出物系統は最も影響を受けにくい。

 そのため、種子を長期保存していると、性質が弱ってきたと思ったら古い種子に戻ることができるし、出物系統ではもし、出物が抜けてしまっても予備の種子から再スタートすることができるため長安心である。長期保存するコツは、種子を休眠状態にすることで、そのため、脱水・低温保存を行う。

 長期保存するためには、小型の封筒に移し、シリカゲル等の乾燥剤を入れた密封できるプラスチックのタッパーウエアや茶筒に入れる。また、ファスナー付きのプラスチック袋(ジップロック等)も密封性に優れており省スペースの意味でも便利である。これを4度の冷蔵庫で保存する(ただし誤って凍らせるくらいなら室温保存の方がよい)。シリカゲルは赤く変色してきたら青いものと交換する。最初は、2−3カ月に1回交換し、その後はもっと低い頻度の交換で大丈夫である。この状態で30年以上種子の保存が可能となる。

種子を保存している様子