トランスポゾンによる咲き分け、枝変り

アサガオの突然変異の多くはトランスポゾン(動く遺伝子)によって誘発されていると考えている。特に飯田らの研究室でクローニングされたDFR-B遺伝子(雀斑, a-3fの原因遺伝子)やCHI(吹掛絞; sp)遺伝子、また私がクローニングした牡丹(dp)遺伝子には両端の数百塩基が相同なTpn (Transposable element of Pharbitis nil)とよばれるトランスポゾンが挿入していた。安定な変異も多いが、体細胞で、突然変異遺伝子に挿入しているトランスポゾンが飛び出すと野生型に復帰するため転移が検出される。

 現在保存されているアサガオの系統のほとんどは江戸時代の文化文政期に遡るが、おそらくこの時期の前にトランスポゾン(Tpn)の転移活性が高まった系統が見いだされ、それが市井に広がったのではないだろうか。文化14年(1817)年、江戸で最初に出版された朝顔図譜である、あさがお叢にもTpnの転移によると考えられる柳(mw)などの体細胞突然変異を示す系統が見られ、そのことを表すような花銘がつけられている。


↑左から、七小町、七福神、四季の友


雀斑(そばかす)。時雨絞(しぐれしぼり)とも呼ばれる。遺伝子:a-3f

吹掛絞(遺伝子;speckled; sp)

易変性紫(遺伝子;purple-mutable; prm) 写真で青をうまく写すのは難しくオリジナルとは違う感じの色となっている。

松島(y-1[m])  葉緑素の合成に関与する遺伝子にトランスポゾンが挿入しており体細胞で野生型の青葉に復帰するために起こる変異。黄葉のバックグラウンドに青葉の部分ができる。非常に不安定で黄葉、青葉を多く分離する。

柳(maple-willow; mw) 体細胞で易変性を示す変異には見やすいという理由もあって色の変異が多いのだが、柳は系統によってはしばしば体細胞で復帰突然変異をおこす。何故か一度に野生型にもどらず程度のよわいhypomorphic alleleである立田(maple; m)に復帰することがほとんどである。

 この写真の個体は、糸柳系統(笹(dl)+柳(mw))であり右側の枝のように糸状の葉であるが、柳がおそらく野生型に復帰したため左側の枝のように葉の幅が広くなり、笹となっている。笹にも不安定な変異が過去あったようだが左のシュートの葉は笹の特徴がよく出ているため柳が復帰したものであろう。

 以下の系統は丸葉の親木から柳が分離してくるが、しばしば立田も分離する。丸葉は立田より上位にあるため立田の5裂葉をかなり抑制している。またこの丸葉立田は不稔である。


丸葉親木(co; +/mw) 柳 (mw)出物、立田復帰変異(m+co)